第2話

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 ――エドに新人の斡旋をお願いした時、言われた何気ない言葉がある。自分達人外の純血種に合わせられる人材を確保出来ないのであれば、いっそ量産型の戦闘ロボットを導入しろ、という話だ。勿論エドにとっては冗談だったし、こちらもそれを冗談として受け流した。軽い戯れのようなものである。
 唐突にそんな話を思い出したのはこの『人の形をした、けれど人ではない物』が例の戦闘型ロボットと重なったからではないだろうか。
 自分すらも巻き込む自爆行動。
 それはロボットと同じく無機物にのみ赦された特権だ。自分達がやればやれ人権だの道徳的観念だのと非難されるだろうし、そもそも自爆など御免だ。
 以上を踏まえた上で、起動されようとしている術式に視線を移す。もう言霊遣いが専門外だとか関係無く、その術式がこの辺り一帯を巻き込む大爆発を起こしたり炎上したり、大変危険なものである事は分かった。周囲に溢れだす魔力濃度が異常過ぎる。
 思考を3秒程でまとめたドルチェはおおよその残り5秒程で急場凌ぎの結界術式を拵えた。こんなもので防げるとはまったく思えないが無いよりはマシというものである。

「ドルチェさん、俺の後ろに・・・!イーヴァも!」
「恐らく完全に防ぐ事は不可能でしょう」
「いや分かってるけど!?」

 ちゃんとした結界を張れているのはサイラスのみ。後輩を盾にする事は少しばかり躊躇したが、ほとんど転がるようにしてドルチェはサイラスの背に張り付いた。
 イーヴァはと言うと肝が据わっているのか単に感情の起伏が見えないだけなのか、いつも通り無表情でサイラスから少し距離を置いた背後に陣取っている。その顔に焦りは無いし、動きもまたいつも通りゆったりとしていた。
 あまりにも堂々としているので思わずイーヴァを凝視していれば耳をつんざくような爆発音が響いた。真横で大太鼓を思い切り叩かれたような腹に響く振動。一瞬後に張った結界が破壊される音が響き、爆風で吹き飛ばされる。こんなの、術式を放った本人が一番の被害を受けているに違い無い。
 視界が一転二転し、背中を盛大に木にぶつけた所で止まる。結構な衝撃に肺から空気が押し出されて小さく咳き込んだ。

「ちょ・・・っと、みんな大丈夫!?」

 言いながら周囲を見回す。最初に発見したのは場所からまったく動いていない晶獣だった。エルフを模したそれには全身にヒビが入り静止している。機能停止した機械のように。動く気配は無いが、かといってまた動き出さないとも限らない。間近で爆発に巻き込まれたはずなのだが頑丈なものだ。
 念には念を入れて、と素早く簡易術式を編み、発動させる。すでに全体がヒビだらけだった晶獣は呆気なく砕け散った。ごとり、と落ちた首がまるで人間のそれのようだったが地面に叩き付けられると同時にやはり砕け散った。

「一応任務は完了ですね」

 清涼な水の気配と共にイーヴァが顔を出す。目立った外傷は無いが剥き出しの肌に裂傷が見られる。一番怪我をしそうな子だったがドルチェより元気そうだ。