第2話

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 くるり、膨大な量の水はイーヴァの周囲をゆっくりと旋回している。手を出し倦ねているというよりは集団戦でどう立ち回れば良いのか悩んでいるようだ。

「イーヴァ!アイツはあたし達の攻撃に合わせて結界を張ってくるわ。貴方の役目は、張られた結界の破壊よ!いい?」
「了解しました」
「サイラス、もう一度行くわよ!あたしに続きなさい!時間差で攻撃してみるわよ」

 イーヴァの操る水がその形を変える。見た目はそう、カナヅチだ。確かに壊せとは言ったが、まさか形から入るタイプだったとは。
 驚きでイーヴァの方を凝視しているサイラスを無理矢理呼び戻す。
 しかし我に返ったサイラスは一瞬にして顔を青ざめさせた。

「後ろ後ろ!ドルチェさん、後ろ!!」
「は!?ごめん何!?何か起きてるの?」

 必死の形相でそう叫ぶサイラスに釣られて背後を振り返るも、相変わらずぼんやり佇んでいる人型の晶獣しかいない。攻撃術式を紡ぎつつ、もう一度サイラスの方を振り返る。が、彼はすでに当初予定していた攻撃系の術式ではなく、結界用の術式を展開していた。

「俺達の作戦聞いてたのか!?まずいぞ、ドルチェさん!大人しいと思ったら結構大きな術式編んでるそれ!!」
「そうですね。およそ10秒後には展開を終えると思われます」
「冷静か!言ってる場合じゃないぞこれ・・・」

 言霊による術式の展開はいまいちよく分からない。魔族が使うのは魔術式であり、言霊を使う連中はあまりいないからだ。が、同族のサイラスが言うのだから直撃したら一溜まりも無いような術式なのだろう。
 ――が、当然イーヴァ曰く「10秒後」には展開される術式に対し、いきなり展開中の術式を弄くれるはずもない。そういう大事な話はもっと早くしてもらいたいものだ。

「悪いわねサイラス!たぶん効かないと思うけれど、この術式はとりあえず撃つわ!」
「止めた方が良い!だってそれ爆炎系だろ!巻き込み爆発とかちょっと耐えられないと思う!」
「えぇっ!?う、打ち上げるわ!」

 仕方が無いので空に打ち上げた。が、もともとは爆風を伴う程の大爆発を引き起こす術式。サイラスの結界を考慮して編んだものだが、そのサイラスの結界は現在、対峙している晶獣の攻撃を防ぐ為のものである。
 鼓膜が破れるくらいの破裂音。心なしか地面も少し揺れた気がする――

「・・・守ります」

 空を見上げ、ほんの少しだけ顔を歪めたイーヴァが短く告げた。彼女の指示に従い、水が薄く伸びて傘のように広がる。降り注いできた火の粉――否、火の玉は先程の火剣と同様に香ばしい音と匂いを残して掻き消えた。
 それを見計らったかのように周囲の魔力濃度が上昇。
 非常に信じ難い事なのだが、あの無機物に等しい化け物はタイミングを計っていたのだ。まるで意志ある生物がそうするように、虎視眈々と。