3-7
エルフに似た晶獣が再び耳障りな声を上げた。リズム的に術式起動ではなく、言霊による魔術の起動。ドルチェ自身は後者に当たるので、いまいちどんな攻撃を仕掛けてくるのか予想が出来ない。
取り敢えず様子見に結界を再び張る。先程のは晶獣の一撃で粉微塵だ。間違い無く魔術に秀でた、それなりに歳を取ったエルフの攻撃である事に間違いは無い。薄ら寒さを覚えるような事実ではあるが。
「――ドルチェさん、それは結界だ!」
「え?」
背後からの声と同時、ドルチェの脇を通り抜けて紫電が奔った。その視線の先でようやくサイラスの言葉を理解する。何故なら向かい合ったエルフらしきそれも結界を張っていたからだ。盾と盾、まったく意味の無い攻防に思わず苦笑する。
サイラスの放った紫電が結界に阻まれて霧散し、同時に晶獣が張った結界も薄くなって消えた。どうやら1回の攻撃を防ぐ為の結界だったらしい。
後衛ばかりだと気付いたのか、サイラスが隣に並んだ。
「あら、前に出てくれるの?」
「この面子だったら後衛はイーヴァに譲ってあげた方が良いと思ったんだが・・・」
「そうね。道理だわ」
横目でイーヴァの様子を伺う。どうも戦闘開始直後は動きが堅かった彼女だが、今ではそのぎくしゃくした空気が嘘のように自身の周囲へ水分を集めている。イーヴァが現在使用しているのは召喚術。近場にある水場から水を集めているのだ。
――イーヴァが参戦するにはもう少し時間が掛かる。
ここが川や海であったのならば恐らく一番頼りになったのだろうが、生憎とここはただの裏山。どこかに流れている小さな川くらいあるかもしれないがここには無い。
「全員魔術系の戦闘スタイルだからか、テンポ遅いなぁ。ここにレックスさんかギルさんがいたらもう蹴りが付いてたかも・・・」
「そうねぇ。けれど、ギルだったら返り討ちかもしれないわよ。だって、相手は魔術のエキスパートなんだから」
呟き、術式を起動する。実際の所あの頭の良いギルバードが仲間がいるにも関わらず、この局面で負ける事はないだろう。上手く自分やサイラスを盾に、攻撃を躱すはずだ。それだけの身体能力がある。レックスに至っては鋼の鱗を持つ竜。この程度の攻撃ではそれを焦がす事すら叶わないはずだ。
――やっぱり相性悪いわ、これ・・・。
せめて前衛が一人でもいてくれたら。本日何度目になるか分からない願望を胸にしまい込み、炎の剣を形勢。
数量は多めの文字式。
サイズは小。
形成された剣の全てのタイミングをずらす。
甲高い音と音。それは例の晶獣が魔術を起動する合図だ。何を用意したか分からないが、こちらの攻撃に反応し、見合った対応を取るのはまさに意志のある生物に相違ない。
「サイラス、補助を頼むわ!何でも良い、結界を張ってちょうだい!」
「了解!」
今回もイーヴァの出番は無かったかな、と入班直後から過酷な任務に晒されている新人の顔が脳裏を過ぎる。異常事態だったし、次には期待しよう。