第2話

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 がさり、何かが動く音。それは隠密行動に優れていないような、初歩的なミスだった。
 ドルチェは優雅に身を翻し、その場から離脱。サイラスの隣へと軽やかに着地した。先程まで自分が立っていた所に氷柱のようなものが突き刺さる。

「うわ!?な、何だいきなり!魔術・・・?」
「・・・そうね。何かしら、あれ。まさかイーヴァの予想が当たるとは思っていなかったけれど、ちょっとアレがエルフだとはあたしには思えないわ」

 視線の先。ふらり、と緩慢な動きで姿を現したのは輝く結晶の身体。しかしそれは、獣の形ではなく人型をしていた。よく出来た氷像と見紛うそれは覚束無い動きで、しかし確実にこちらを見ている。
 しなやかな両腕と元はワンピースだったのだろうその形。それだけ見れば人間だとも思えるが、尖った両の耳は確実にエルフのそれだ。何より魔術を使って来る時点でただの人間だとも言い難い。

「気を付けて。いつもの晶獣とは違うみたい」
「イーヴァ、危ないから下がっていた方が良いんじゃないか?」

 一拍の間。何故か晶獣を凝視していたイーヴァが我に返るのに有した時間だ。

「いえ、仕事ですから」
「・・・本当に大丈夫か?無理とかしなくていいからな?あ、それとも変な晶獣がいるとか、報告しに一度戻っても良いぞ?」
「このような敵が何体いるのか分からない以上、私の単独行動は危険だと思いますが」
「うん!それもそうだな!ゴメンね、変な事言って!!」

 キィイィィィ、そんなまるで『声』のようなものが鼓膜を叩いた。咄嗟に術式を展開、イーヴァとサイラスの前に躍り出る。
 その一瞬だけ後、晶獣が翳した手からレーザーよろしく白が一閃する。それは触れた物を凍り付かせ、粉砕した。同じ要領で張った結界が砕ける。一度は凍り付いた不可視の盾が砕け散る様は少しだけダイアモンドダストに似ていた。

「ちょっと!ちゃんと前を見て頂戴、みんなで氷付けになる気!?」
「う、すまんドルチェさん・・・」

 言いながらサイラスが軽く跳ねるように後退する。彼はエルフとの混血。魔術を扱うにあたって、間合いは重要な意味を持つのだ――

「んん・・・?」

 そんなサイラスに続いて後退したのはイーヴァだった。そういえば、彼女は人魚、即ち魔族との混血。人魚と言えば水場ではかなり強いがそれ以外の場所では少しばかり他の手順を踏んだ小難しい魔術を使用する。
 ――そして、ドルチェ自身。メインウェポンは言うまでも無く魔術である。

「ちょ、後衛ばかりじゃない・・・!ああもう、雑魚ばかりだと思って班編制適当にするから・・・!絶対に許さないわ、エド!!」

 撤退、そんな言葉が脳裏を掠めた。