第2話

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 街の裏山、と言えばたくさんの思い出がある。例えば今の2班初期メンバーとはここでよく模擬戦をやったし、街のトラブルは大抵ここに誘導してから袋叩きにした。レックスがうっかり木に引火させて大惨事を引き起こした事もある。
 ずっと外回りばかりだったので胸一杯に思い出の匂いを吸い込み、ドルチェは笑った。付き合いの長い2人はいないが、不安はない。サイラスだって混血にしてはちゃんと出来る子だし、イーヴァも特に怯えている様子は無いからだ。それに、どうせ今回も雑魚。ならばイーヴァに上手く手柄でも譲ってあげて、自信を付けて貰うのもありだ。

「もう、ドルチェさん何をニヤニヤしてるんだ?緊張感なさ過ぎだろ」
「本当に堅いのねぇ、サイラス。あたしは今までの思い出を噛み締めて、今日の出来事に胸を躍らせているだけよ。ね、イーヴァ?頑張りましょ?」
「・・・?はい、了解しました」
「うふふ、何を言っているか理解してないって顔ね。可愛い子」

 はぁ、と返事らしきものを返したイーヴァからそっと距離を取られた。微かに首を傾げているあたり、関わらない方が良いと判断されたのかもしれない。最近、彼女の表情を少しだけ読み取れるようになったのはドルチェの自慢だった。気が向いたら、彼女の機嫌の有無についてギルバードにも教えてあげよう。
 ――もっとも、彼ならばすでにそれを見抜いているのかもしれないが。

「どの辺に移動させたんだろうな、晶獣。いないどころか気配もしない気が・・・」
「サイラス。あなた、本当に気配を探るのが下手クソね。代わるわ」
「うっ、ごめんドルチェさん・・・」
「いいのよ。人には得手不得手というものがあるわ。・・・あら、本当にどこにもいないじゃない。逃げられたのかしら?」

 立ち止まる。と、後輩2人も足を止めた。なおも注意深く周囲の気配を探って、それでも何も感じ取れないので魔力の動きにまで注視してみたが本当に何もいない。

「うーん、7班が失敗するとは思えないなぁ。あいつら、人間の集団だけど意外と強いし・・・しかも姑息・・・」
「こら、昔トラブった事をもう忘れたの?滅多な事を言うものじゃないわ。ねぇ、イーヴァ。あなたも何も感じない?」

 半分とは言え魔族の血が混じっているイーヴァ。あまり期待は出来ないが、彼女は話を振らないと答えてくれないので一応は訊ねてみた。暫し黙った彼女はふとこう溢した。

「私にも分かりませんが、上級魔族であるドルチェさんが気配を感じ取れないのであれば、相応の歳を経たエルフが相手なのかもしれません」
「ちょっと、相手は晶獣よ?まさか、どうしていきなりエルフが・・・」
「うーん、俺もちょっとそれは・・・そもそも、エルフって種族は例外なく争い事嫌いだからなぁ。人間の街を襲う画策なんてするはず無いぞ・・・」
「そうですか」

 発言を撤回するわけでもなく、「聞き入れられないのならそれでもいい」、という態度のイーヴァ。何かその発言に根拠があるのであれば教えて欲しいのだが、彼女の中でもその仮説はあり得ないものとして扱われているらしい。それ以上の言及が無い。
 じゃり、という不意に変わった地面を踏みしめる感触と音。再び足を止めたドルチェは屈み込んだ。つい最近、というかここ最近よく踏むそれに似ていた気がしたのだ。

「あら?誰かあたし達の仕事、肩代わりでもしてくれたのかしら。・・・なんて、まさかね」
「どうした?」
「ターゲット、そもそも生きているのかしら」

 呟いたドルチェは地面を指さした。
 生い茂った草によって見えづらいが、確かにある、粉々に粉砕された結晶の欠片を。それは微かな日光を浴びてキラキラと輝いていた。