第2話

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 住み始めて半年が経った。
 相変わらずイーヴァはあくせく働いているし、ギルバードはギルバードで賞金稼ぎに精を出している。このご時世だ、賞金首の数は日を追って増えている。この仕事をやっていて稼げなくなる事はないだろう。それはそれで問題のような気もするが。
 イーヴァ達は自分が何をして稼いでいるか知らない。彼女はそういう世界を知らないで良いと思うし、何事か察しているマリィもそれを彼女に話そうとはしないのできっとそういう事なのだ。

「――ん?」

 まだ日は高い。捜していた賞金首がすぐ見つかったのであとは体力に物を言わせて街まで走って帰って来たからだ。しかし、見慣れた民宿の玄関先には見知らない男が立っている。40代後半から50代半ばくらいか。いまいち年齢が特定出来ない妙齢の男。その手には杖を持ち、帽子を被ったスーツ姿である。「紳士です」、と言われてうっかり信じてしまいそうな格好だ。
 男は家の中にいるイーヴァと何事か話しているらしい。足音を殺してそれに近付く、と会話が終わったのか男の身体が反転した。その拍子に目が合う。
 軽く会釈した男はそのままギルバードの隣を通り抜けて街の方へ歩いて行った。今度はドアを開けたままこちらを見ているイーヴァと目が合う。

「何だアレは。客か?」
「いえ、道を聞かれたので答えていました」

 ――家の中を見ていたような気がする。
 それに立地的な問題で、ここへ来る為の道を聞く事はあっても、ここから街へ行く為の道を聞く事なんてそうそうないのではないだろうか。
 考えていても仕方無いし、新妻よろしく出迎えてくれた少女に礼を言いつつ家の中に転がり込んだ。賞金首を伸すより目的地までの移動の方が何倍も疲れる。獣人の体力を以てしても移動時間を短縮するのはそれなりに疲労を伴うものだ。

「今日はバイトは休みか、イーヴァ?」
「はい。ギルバードさんが稼いでくれてるお陰ですね。あ、今丁度飲み物淹れようと思ってたんですけど何か飲みますか?」
「お前が飲むのでいい」
「あ。動物ってカフェイン駄目なんでしたっけ?」
「・・・いや、確かに『獣』人ではあるが、同時に俺達は人でもある事を忘れないでくれ、ホント」

 他愛もない会話。何よりも好きな時間なのだが、それに水を差したのはインターホンの音だった。滅多に客なんて来ないと言うのに、今日はよく人が来る日だ。
 イーヴァが慌ただしく玄関へ走って行った。