第2話

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 翌日。まだ朝日が昇りきっていないような時間に目を醒ました。
 というのも、1階から聞こえてくる物音で浅かった眠りが完全に覚めてしまったのだ。こんな朝から何をしていると言うのか。何とはなしに気になったので適当な上着を羽織り階段を下りる。
 ロビーへ行ってみると外へ続くドアが開け放してあった。微かな光に誘われるように外へ出る。

「・・・こんな朝早くに何をしている」
「・・・あ、おはようございます」

 午前5時過ぎ。
 何故か荷台に大量のバケツを積むイーヴァの姿を発見した。ジャージを着た彼女はその首に白いタオルを引っ掛けている。

「今からマリィちゃんの為の海水を汲みに行くんです。何でも、定期的に海水に浸からないと死んじゃうらしいので」

 人魚の生命維持活動の一環か。魔族とはいえ中級第3位の脆い存在である彼女は海水がまったく無い状況では生きて行けないようだ。
 それにしても――

「あの人魚、自分でやればいいのに」

 思わずそんな言葉が口を突いて出た。人魚の存在を隠しているイーヴァが朝早く彼女の為の海水を汲みに行っているというのに、マリィその人の姿は影も見えない。
 しかし、どう見たって重労働であるそれを彼女一人に任せるわけにはいかないだろう。非常に不本意ではあるが、泊めてもらっている身。仕方なさも相俟ってギルバードは手伝いを申し出た。

「大変そうだな。力仕事は得意だ、手伝おう」
「ああ、本当ですか?ありがとうございます。じゃあまず、バケツをバランス良く乗せるのを手伝ってください」
「その荷台は坂を上れるのか?重そうだ」

 今は空のバケツだがこれに全て水を入れれば相当な重さになる事だろう。あの浴槽を満たすのに何往復しなければならないのか。自分の力ならば1往復で行けるだろうか。
 こっそり溜息を吐く。どのくらいの頻度で水替えをしているのかは知らないが、自分が家主なら絶対に引き受けたくない仕事である。

「貸せ」

 荷台を奪い取り、緩い崖横の緩いスロープのようになっているなだらかな坂へ荷台を押し進める。それにしたって結構な傾斜だ。帰りもバケツの水を撒きながら帰る事になるだろうと早々に予想がつく。
 ややあって海岸に着いてみると足場の少なさに絶句した。砂の部分は坂を下りた一部だけで、完全にプライベートビーチというか、そのくらいの面積しかない。
 バケツに水を汲み始めたイーヴァにならい水を汲み始めるもそこそこ腰に来る作業で絶句。身体は鍛えられている方だが明らかに普段は使わない筋肉を使用しているのが分かる。

「おい、お前これはどのくらいの頻度でやるんだ?」
「週一ですね。キツイのなら休んでいて構いませんよ、おじさん」
「おじ・・・っ!?ふん、人間より体力はあるぞ」
「ならツベコベ言わず働いてください」

 この後、数回海水汲みに付き合った挙げ句、風呂場に海水汲み上げ機を造ろうと考案する事になるとは当然ギルバード自身も、または家主のイーヴァも思っていなかった。