第2話

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 伸びた手がノブに触れる、その瞬間。唐突にそのノブが手の平に向かって来た。突然の事に反応が遅れ、勢いよく開きかけたドアはギルバードの手によって止まる。思わずノブを握りしめ硬直してしまった。咄嗟の事にどんな反応をすればいいのか、血液の循環が悪い脳内で答えがすぐに出なかったのだ。

「あれ、開かない・・・てんちょーう!また裏口の所に何か置いたでしょう?ただでさえ裏は狭いんだから――あれ、ノブも動かない・・・?」

 思わずそのノブを引いた、手前へと。疲れていたし腹を空かし過ぎて正常な判断力を失っていたのは間違い無い。

「うわっ!?」

 ドアと一緒に少女が着いて来た。驚いているのかいないのか、硬い表情のまま目と目が合う。一種異様な空気が両者の間に流れた。

「・・・強盗、ですか?」
「いや・・・」

 短い会話。そしてまた訪れる奇妙な静寂。
 否、そもそも強盗するつもりでドアを開けようとしたのではなかったか。ならば、今の言葉は嘘になるのでは。取り留めのない妄想がグルグルと脳内を巡る。
 だからこそ、少女が腕を引いてドアを閉めようとしている事に気付くのが遅れた。非力な人間の女――それも子供が何か引っ張ったところで蚊に刺されたようなもの。全然気付かなかった。
 顔を上げるとドアの奥に食器を乗せたトレーがある事に気付いた。しかし、客の姿は無く狭い部屋には小さな机とパイプ椅子が2つあるだけである。

「それ、私の昼食なんですけど」
「いや、何でも・・・」
「お腹減ってるんですか」

 淡々と告げられる言葉。いまいち「こう思っている」から「こう答えよう」が通じない抑揚に困惑する。また、表情から何を考えているのかもいまいち読み取れない。ので、仕方無く少女の問い掛けに素直に頷いた。

「凄い格好してますね。追い剥ぎにでもあったんですか?えーと・・・あー・・・何か食べます?」
「何か分けてくれるのか?」
「まぁ・・・殴り掛かって来られても困りますし」

 少し待っていてください、と少女は昼食らしきトレーに近付くとその中の小さな器を選び、おかずを盛り始めた。
 彼女の影になっているのと、空腹が過ぎて目が霞んでいる為どんなおかずがあるのかは分からない。ややあって、戻って来た彼女は2つの器とフォークを差し出した。

「どうぞ。あ、ここスタッフルームなんで中には入って来ないでくださいね。原則、動物に餌をやるのは禁止されているんです」
「俺が動物に見えるのか?」
「同じようなものです」

 分けて貰った食べ物に視線を落とす。まずは白米。そしてもう1つの器にサラダと野菜炒め、茹でられたピーマンに――

「野菜しかないな」
「すいません。私、肉食なので」

 確実に嫌いなおかずを押し付けられている。