第2話

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「・・・何か、ご用でしょうか?」

 暫く考えていればイーヴァがそう訊ねた。やる事が無い、と困っているように見えたが会話は早く切り上げたいらしい。ますます何を考えているのか分からない。

「えーっと、じゃあイーヴァ。今からどうするつもりだったのかしら?やる事、無いんでしょう?」
「部屋へ帰って寝るつもりでした。睡眠は一番時間を潰せますから」

 ――何て勿体ない・・・。
 ブラックな面があるこの仕事は定期休暇が無い。人命救助とかの名目で成り立っている組織なので休みなど返上される事もしばしばある。つまり、今日を逃せばいつ休日が回って来るか分からないのだ。
 そんな貴重にして稀少な休日を、寝て過ごす。ドルチェには無い考え方で一周回って最早斬新な域である。

「えーっと、イーヴァ?あのね、うちの組織は基本休みが無いのよ?今日を逃したら、次はいつ休みなのか分からないの」
「そうですか。まあ、休みなんて無くても――」
「止めて!過労死しちゃう!!」

 少しばかりイーヴァが訝しげな顔をした。と言っても、微かに目を細めただけで気のせいと言われればそれまでの、些細な変化ではあったが。

「2班は暇な時は本当に暇だ、と。総督が言っていました」
「今は緊急時だから・・・。何年か前には数ヶ月連続休みがあったわよ。ま、晶獣が出て来るようになってからはずーっと出突っ張りだけどね」
「なる程。ではやはり身体を休める為にも睡眠を取るのが妥当ですね」
「何故っ!?遊びましょうよ!どうして部屋に籠もりたがるの!?」
「はぁ・・・。ですが、次の任務に支障を来してもいけませんし」
「真面目っ子には見えないわよあなた!」
「特にやることもないですから」
「最初の会話に戻るからもうそれ以上はお止めなさい!」

 何て恐ろしい子なんだ。正論なんだけれど釈然としない、この酷くもやもやした感じを上手く体現してくれる。
 チラ、と時計を確認した。現在の時刻は午前11時23分。
 とにかく彼女は眠りたいようだし、お出掛けには午後からもう一度誘ってみよう。今は自分も心の整理が必要だ。

「あー、じゃあイーヴァ。暇そうなあなたにお願いがあるのだけれど」
「?何ですか」
「昼まで――そうね、1時くらいまでにギルが食堂へ来なかったら呼んで来てくれる?たぶん図書室にいると思うわ」
「構いませんが、私は部屋へ戻ります。ギルバードさんが食堂へ行ったかどうかは確かめようがありませんよ」
「直で図書室へ行きなさい。あいつ、ちょっと調べ物するって言ってたからその合間に何かお腹には入れないはず。つまり、食堂にも行かないはずよ」
「・・・了解しました」

 ――ギルの背中を押しつつ、食堂へやって来たら買い物に誘って荷物持ち・・・完璧ね!
 我ながら完璧な作戦だ、と恍惚とした表情を浮かべたドルチェは足取り軽く自室へと戻って行った。