3-7
「――質問タイムだな。色々訊きたい事はあるが、今一番知りたい事は一つだ。4班を襲ったのは誰だ?」
「何だそれ・・・?」
「俺達に会う前・・・んん?話が噛み合っていないな」
懇切丁寧に事前の話を伝えようとしたギルバードが我に返って首を傾げる。
そんなギルバードに代わり、ドルチェが次は質問を投げかけた。
「あなた達のボスは誰なのかしら?それともただのチンピラ集団?」
「・・・そんなもん、俺が知る訳ないだろ」
「嘘よ。統率が取れた動きだとは言えないけれど、晶獣を操っているその技術は誰に提供されたの?とてもあなたのような存在がその理由に漕ぎ着けたとは思えないわ」
困った。いまいち話が通じていないのもそうだが、本当に彼等は下っ端の下っ端で自分達が何故こんな事をしているのかさえ分かっているか怪しい。機関の情報もほぼ持っていないようだし、彼等の上司は何を考えているのだろう。底の見えない崖から身投げしろと強要しているようだ。
――チリ、と僅かに熱い空気が剥き出しの肌を撫でた。
近くで焚火でもしているかのような、焼けた空気。火事でもどこかで起きたのだろうか。
「魔術を使える敵でもいたのかしら」
「そういう訳では無さそうだ」
「え?」
ギルバードの溜息に似た言葉に彼の視線を追っていくとすぐに合点がいった。目を丸くしているイーヴァは珍しく素直に驚きの表情を浮かべている。
「張り切り過ぎだろう、頭沸いてるんじゃないか・・・」
民家より一回りくらい大きな生物だった。薄い蝙蝠のような羽を持つ、赤黒い体躯の蜥蜴。それはお伽噺のヒールであり、神聖な生き物でもある。ゴォッ、と火炎放射器を彷彿させる火炎を吐き出すそれは、まさにドラゴン。否、事実ドラゴンなのだ。
一体何に対してそのブレスを吐き掛けているのかは見えないが、あんなものまともに受けた日には骨すら残らないだろう。現に、離れている自分達にまでその猛々しい炎の熱を感じることが出来る。
「レックス・・・。今まであまり言わなかったけれど、ずっと新入り入ってくるの楽しみにしてたものね。にしてもちょっとやり過ぎな気がしてならないけれど」
「仲間が増えるの好きだな、奴は」
「本当はもっと一杯メンバーが欲しいみたいよ。和気藹々としているのがお気に入りみたい」
「班内の軋轢を起こさない為にも、俺は今のままくらいが丁度いいと思うがな」
もう一度希少種の源身を眺めたギルバードは胡乱げな瞳で頭を振った。
「今回の任務はレックスに任せておいて良さそうだな。撤退するか」
「彼、どうする?」
「置いておけ。片付けの連中が回収するだろう」
「失血死しちゃうんじゃない?まあ、あたしも服が汚れるし重そうだし持って帰りたくないけれど――って、イーヴァ?いいのよ、あなたが持ち帰ろうとしなくて」
のこのこと男に近付いて行ったイーヴァを慌てて止める。いや、持ってほしいならちゃんとそうお願いするから。
「そうですか。それで、今からどうしますか?」
「そうねぇ・・・うーん、もう帰っちゃう?レックスが何とかしてくれるでしょ。結局、4班を倒せるような強敵はいなかったわね。何だったのかしら」
「6は置いておくとして、他はまともな編成だ。やはり何かいたのかもしれないな」
「6班の子達を引き合いに出すのはちょっと・・・あの班の子達って本当に何考えてるのか分からないわよね。一時は謎の宗教みたいなの流行ってたし」
くるりと踵を返す。街の中ではいまだ仲間による甚大な被害が広がっているが見ない事にした。始末書はレックス本人に書かせると固く誓っている。