第1話

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 解散した後、ふらりと消えたギルバードを追うようにドルチェは身を翻した。彼の様子がおかしい事には最初の段階で気付いていたが、新人確保の為にも触れないでいたのだ。サイラスと一瞬だけ合った目をすぐに逸らし、部屋を出る。
 何か悩ましい事があった時、ギルバードが向かう場所は決まっているのだ。班員が意図的に足を向けない場所――
 コンパスの差が、すぐに見失った仲間を追うようにして滅多に足を踏み入れる事のない図書室へ入る。司書兼管理人の女性に物珍しげな目で見られた。そりゃ、本なんて読まないけれど。そんな顔する事ないんじゃない?

「ギル」

 本も読まず組んだ手に顎を乗せてぼんやりと外を見ている捜し人を発見。ゆるり、と首を動かしてこちらを見たアンニュイな獣は「何だ」、と短い言葉を吐き出した。放っておいて欲しそうだ。

「あなたの様子がおかしかったから、何かったのかしら?」
「・・・・」
「班の軋轢にも繋がるし、誰にも言わないわ。あたしにだけ教えてちょうだいよ。勿論、力にはなるわよ」

 疑わしげな目が向けられる。が、人間関係においては自分より円滑に事を運べる者はいないと自負しているドルチェは逸らすこと無くその目を見返した。値踏みするような、躊躇うような空気の後重々しい溜息が鼓膜を打つ。
 下らない、と吐き出された独り言は自嘲めいた響きを持っている。獣的思考を持つ彼は同時にとてもナイーブな存在なのだ。壊れ物注意。

「イーヴァ」
「混血の女の子ね。あの子がどうかしたの?」
「昔の知り合いに、とてもよく似ている。というか、境遇の違う色違いの同名だ」
「色違い?その知り合いと名前も同じなの?それって本人じゃないのかしら」

 色の無い瞳が向けられる。

「その知り合いはもう死んでいる」

 ストンと落ちた言葉に一瞬だけ思考が止まった。そうだとしたら、『イーヴァ』の存在は不気味であると言う他無い。なかなか剛胆そうな新入り達だったしもしかすると本当に新しい仲間が増えるんじゃないかと期待していた。けれど、もうその事実を知ってしまうと和気藹々とした雰囲気を望むのは不可能であると納得してしまったのだ。

「そう・・・。ううん、気になるのならエドに相談する?今ならクーリングオフ出来るでしょう、あの子」
「お前、女の子が来たと喜んでいただろう」
「背に腹は代えられないわよ。あなたがどうしても無理だと言うのなら返却するわ」

 沈黙が落ちた。述べた言葉に嘘はない。最優先は今出会ったばかりの新入りではなく、最初からいるギルバードの方だと瞬時にそんな答えが出たのだ。こんな考え方だから新しい子が増えないのかもしれない。