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別に筆頭すべき事はありません、といきなりテンションを下げる一言を放ったのはイーヴァだった。相変わらず感情の読み取れない顔をしているが、頬の片方が膨れている所を視るとレックスのあめ玉はまだ噛み砕いていないようだ。従順である。
「先程、エリオット総督が申し上げた通り人間と人魚の掛け合わせです。・・・そうですね、水に浸かれば魚、陸に上がれば人、特徴と言えばそれくらいでしょう」
人魚と言えば大半の人間は麗しい下半身が魚の乙女を思い浮かべる事だろう。しかし、現実は非情だ。「人魚が美しいのは水中だけ」、それが今や共通の常識となりつつある。
イーヴァは人間の血が混ざっているのでノーカウント。人魚とは本来、陸に上がると鱗に覆われた人の形をしただけの魚、という状態になる。あまり言いたくは無いがその外見は夢に出て来る程、醜い。
混血であるが為に水陸両用として誕生したイーヴァはある意味運が良いとも言える。
「うーん、そうねぇ。別に性能はどうでも良いのよ。あたし達がいる以上、サポートさえ出来ればどんな子だって構いやしないもの。聞きたいのはそう――ここに来るまで何をしていた、とか」
「何をしていた、ですか?すいません、記憶にありません」
「・・・どこか街に住んでいた、とかそういう事じゃないのか?」
「分かりません」
ギルバードの具体的な問い掛けにも首を振るイーヴァ。エリオット総督は一体どこからこの人材を引き抜いて来たのだろう。底知れない組織の闇を垣間見た気分である。
記憶容量がスッカラカンという事実について、彼女にとって思う所はないようだ。相変わらずの無表情で呻るギルバードを見つめている。そういえば獣人の彼は、人魚の混血と知り合いなのだろうか。熱心に眺めていたようだが。珍しがっていただけ?
「はいはい!オレ、カイルッス!獣人と人間の混血!兄貴シクヨロ!!」
「俺はお前の兄貴じゃない。・・・混血、か。なら両親のどちらかは俺の同胞だという可能性はあるな・・・」
「あ!オレ、90年くらい生きてるんで!両親もういないッス!」
「それでこの落ち着きの無さか!?というか、あれ・・・俺より、歳、上・・・?」
驚愕の事実に手の震えが止まらない。カイルを見ていると90年の歳月で一体何をどうしたのか、と問い詰めたくなる。もう少し落ち着きを持とう。
イーヴァに再び視線が集まる。
「歳、ですか?そうですね、知り合いの見立てによると30・・・?50は無いと言われました」
「若いなぁ。分からない事があれば何でも聞くといい!新入り新入り〜」
上機嫌なレックスとドルチェ、何事か考え込んでいるギルバードに落ち着きの無いカイル。それぞれがそれぞれのように振る舞う中、レクリエーションの幕は下りたのだった。