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「はいはーい、次はあたしの番ね!」
名乗りを上げたのは微塵も疲れを感じさせないドルチェだった。彼女はこういった行事が大好きなのでノリノリである。どこか上品な仕草で自らを指し示したドルチェは明瞭に自らの正体を明かした。
「初期メンバーのドルチェよ。あたしは魔族!上級よ、上級。だからってあたしに対して恭しく接したりしないでね、イーヴァ!」
上級第2位。厳正なる血統社会である魔族の序列は大事だ。何故こんな所で働いているのかはまったく不明であるが、ドルチェの血筋はその一滴で金の船が買える程の価値がある事を明確にしておこう。なお、混血であるイーヴァは人魚とのミックスであるが、人魚は魔族の中での序列が低い。中級第3位とギリギリ中級ラインに収まっている種族である。
腹を立てるとすぐ源身に戻るレックスや、戦術的面ですぐ源身に戻るギルバードを鑑みると彼女の正体はやはり謎だ。その人間の皮の下には一体何を隠しているのか。
「ドルチェさん、幾つなんスか?」
不意にカイルがそう尋ねた。女性に数字の事聞くなんて死にたいのかと冷や汗が背筋を伝ったが、意外にも若輩の無礼をドルチェは寛容に受け流した。
「うっふふふ、幾つに見えるかしら?まあ、あたし達の界隈で見た目なんて何かの判断材料にはならないけどね」
さ、次はあなたの番よ、とドルチェが視線を向けた先にいたのはぼんやりと盛り上がる様を見ていたギルバードだった。妥当な順である。
数度瞬きしたギルバードがようやく何の話か理解したようでどこか上の空な調子ではあるが口を開いた。
「ああ。・・・ギルバードだ」
「お前は風情というものがないなぁ!まあいい、コイツは獣人。大狼だ!歳は・・・俺達と同じくらいかな。たぶん」
獣人と言えば人間に次いで数が多い種族である。ただし、化けていれば人間と見た目が大差無いので圧倒的に混血が多い。ギルバードは理性的な方であるが、獣としての性質を持っている以上、自身の血など身体を循環させる体構造の一部としか考えておらず種としての血を護るという考えは一切無い。
また、早死にする個体が多く純血種は今を以て減っていくばかりだ。純血且つ100年以上を生きた個体は片手で数えられる程しかいないだろう。
――さて、ここまでが2班の誇るエースだ。種族としての価値も高く、戦闘面でも非常に頼りになる機関の精鋭。
さて、とサイラスは軽く息を吐く。自分の影が薄い事は自覚しているし、今までよくこの化け物達とやって来られたものだと感心しもする。
「あー、次が俺か。えーっと、名前はサイラス。エルフと人間のクォーターってところかなぁ。あ、もっと薄いかもしれないけど結構長く生きてるから4分の1くらいは人外の血が流れてるって事になるか!」
「先輩、俺達混血組の仲間ッスね!」
「いや同じ班員だから!止めよう、差別的な事言うの!」
混血組――イーヴァも含まれるのだろう。肩を組もうとして伸ばした腕をイーヴァがひょい、と躱す。先行き不安だ。
さて、エルフと言えば大器晩成型。主に魔力に頼り切った種族なので、長生きし、魔力容量が増えてからが本番なのだ。人間のように脆く、300年を跨いだ個体は今の所総督のエリオット以外知らない。また、外見が限りなく人間に近いので混血も多い。
魔力と言えば魔族、とそういう法則が成り立っているからか影も薄い、なかなかに不遇な種族だが穏やかな個体が多いせいか争い事の渦中にはいない事が多い、などそこそこ特徴はある。
「何か異種族間交流ってヤツ?が、盛んッスね。種族間抗争酷いからここももっとギスギスしたもんかと思ってたッス!」
「あらワンちゃん、あなた軽そうな見た目と口調の割りにシビアな世界観を持っているのね。まぁ、うちはみんな仲良しだから不安になる事なんて無いわ」
さあ、とドルチェが怪しく嗤う。
「次はあなた達について聞かせてくれる?うふふ、楽しみねぇ」