第1話

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 程なくして空いている小さな会議室を発見、移動した。中は大きなホワイトボードが正面にあり、椅子と机が丸く配置されている至って普通の会議室仕様となっている。
 無感動な目でそれを一瞥した新人・イーヴァが不意に呟いた。

「・・・これから何をするのですか」
「やぁねぇ!新しい子が入って来たらやる、お決まりの自己紹介ってやつよ!人間風に言うとレクリエーションって事になるわね!」
「それでしたら、先程総督がやったのでは」
「あんなんじゃ全然データ不足!親睦を深める為にも、もっと貴方達の事を聞かせてちょうだい!」
「・・・そうですか」

 ころころと表情が変わるドルチェとは裏腹に、イーヴァの表情筋はぴくりとも動かない。傍目見ていると非常にシュールだが、ギルバードの様子もおかしいしそれを指摘している場合では無い。
 すでに和気藹々とした空気になっているのでその隙に微動だにしないギルバードに声を掛ける。

「ギルさん?具合でも悪いのか?」
「・・・いや。すまん、少し考え事をしていた。それで、これは何をしようとしているんだ?」

 ――考え事、少しじゃないだろ明らかに。
 一切話を聞いていなかったらしいギルバードの一言に頭を抱えたくなる。頼れるのは彼だけだと言うのにその彼すらこの様子だ。

「何でも、レクリエーション?やるってんで・・・」

「一番は俺だな!心して聞け!!」

 何故か自身に満ち溢れたレックスの声。それだけで何が起きているのか理解したらしいギルバードが手近な椅子に腰掛けた。全員立っているが、一応今は徹夜任務明けだ。皆元気が過ぎるのでは。
 心底楽しそうな顔で自分を指し示したレックスは上段にいる。遠い昔、まだ人間の様に過ごし、学校などという施設に通っていた頃をうっすら思いだした。

「この班――2班の隊長、レックスだ!純血の竜族!歳は・・・んー、幾つくらいだったかな・・・100以上、200未満くらいか?うん!よろしくなッ!!」

 完全に人間へと擬態せしめている空飛ぶ爬虫類はそう宣うととびっきりの笑みを浮かべた。個体数はかなり少ないがその1個体が非常に高い能力を秘めている竜族。長生きするのが当然の種族とも言えるからか、彼等の中では300歳を過ぎてからが一人前である。
 人間が創り出したお伽話。その悪役を、或いは神聖な存在を担うだけの力が彼等にはある。勝負する際は注意されたし。
 上段を下りて来たレックスはカイルとイーヴァに手の平を差し出した。

「お近づきの印だ、飴ちゃんをくれてやろう!」
「ワーイ、あざーっす」

 ノリよくそれを手に取ったカイル。しかし、危惧していた通りイーヴァはレックスの手の平をただただ見つめている。

「・・・何ですか、コレ」
「え?飴を知らないのか?」

 答えは無い。イーヴァは長方形の包みを見つめている。冗談を言っているようにも見えないし、本当に飴を知らないのか。
 ふむ、と思案するように腕を組んだレックスはその包みを破いた。

「まあ知らないと言うのなら今から知ればいい。甘いぞ、食べてみるといいさ。虫歯になりやすくなるらしいぞ、噛み砕かない事を勧める!」

 手に乗せられた剥き身の飴を暫く見つめていた彼女はそれをゆっくりと口に入れた。感想はない。どっと疲れた感じがして、サイラスは本日何度目になるか分からない溜息をこっそりと吐き出した。