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総督・エリオット――本部全ての責任者であり、同時に数十年の歴史を持つ中立機関の創立者でもある存在。当然人間ではなく、その正体はおよそうん百年を生きたエルフである。人間とその混血を除く全ての種族は歳を取れば取る程強くなるのがセオリー。彼等はその歳月に自分の歴史を刻みつける事で力を得るからだ。
さて、虫も殺さないような綺麗な笑みを浮かべる優男は誰も先を促さないのに勝手に話を続けた。
「ああ、新人が欲しいんだって?丁度良かった、本当に偶然なのだけれど2人程新しい子が余っていてね。どこに配属しようか考えていたところだったんだよ」
「余っている・・・?」
不穏な台詞にギルバードが顔をしかめた。サイラスもまた渋い顔を浮かべる。それはつまり、どの班にもおけなかった問題児を押し付けようとしているのではなかろうかと。
両者の言わんとする事を読み取ったのか、総督は悪びれもなく小首を傾げた。酷く白々しい。
「何か問題でもあるのかい?そもそも君達自身が問題児みたいなものなんだから、今更若輩問題児が2人増えたところでそう変わらないさ」
「ねぇ、その子達ってあたし達に着いて行けるくらい丈夫なんです?」
「どうかなぁ。根性はあるし、ちょっと考えている事の分からない子達だから何とも言えないかな」
「女の子ですか?ねぇねぇ」
「1人は女の子だよ。ただ、君とは合わないかな?知らないけれど」
サイラスは胃を押さえた。その問題児とやらが先輩方のお眼鏡に適わなかった場合、面倒を見る事になるのは十中八九自分だ。その未来が明確化していくようで胃痛が抑えられない。勘弁してくれよ本当に。
ちょっと良いですか、とそれまで黙っていたエドが口を挟んだ。
「もう何でも良いんで、俺も仕事にならないからさっさと新人紹介して解散してくださいよ」
「お前には情緒というものが足りんなぁ!」
「お前だけには言われたくない言葉なんだよなぁ・・・」
レックスに向かって盛大に溜息を吐くエド。彼専用のディスクには書類が山積みだ。自分の仕事だけは溜め込まない彼がこれ程の書類を溜め込んでいるのは珍しい。何か不手際でもあったのだろうか。
そうそう、とエリオットが楽しげに手を叩いた。見惚れるくらいに上品な動作だったのだが、その仕草だけで再び執務室に静寂が訪れる。
「そういえば連れてきてるんだよね。まさか君達が僕の頼みを断るはずなんて無いし、二度手間になると思って」
「早く入れてやってくださいよ!」
堪らずサイラスは叫んだ。執務室に新入りの影はない。となると、その新入り2名は廊下で待たされている事になるからだ。