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結局班員全員で執務室まで向かう事になった。そんな大人数で行ったらさすがに迷惑だ、とサイラスは何度か諫めたのだが誰も聞く耳を持たなかったので諦めた。
そういう経緯など当然知らないであろう、執務室でいつも通り執務に励んでいたエドが顔を引き攣らせる。彼は40代半ばの飲み屋街とかにいそうなおじさんだ。そんなおじさんは体格の良い2班の男共に囲まれて困惑顔である。
「あ?何お前等、ストライキでも宣言しに来たのか?」
「いや、見ての通り新人の紹介をしてもらおうと話をしに来た」
「は?全員で来る必要ねぇだろ、何?まさかあれか、お前等一人一人でも十分脅威なのにその上数の暴力に頼ろうって魂胆か?」
眉間に深く皺を刻んでいるエド。困惑顔からの怒り心頭、の様子にただただ事の成り行きを見守る事しか出来ない。狭い執務室に人がこれだけ集まれば苛立ちもするだろう。
うん?と、レックスが小首を傾げた。
「いや、お前を脅すくらいならばこんな大勢では来ないだろう。それより新人だ、新人!丈夫な子を頼むぞ!」
「お前等の言う丈夫ってどのくらい?もういっそ、量産型戦闘ロボットとか動員すれば?」
「嫌だ嫌だ!血の通った生物が良い!!」
徹夜明けなのだろうか、ぐったりした様子のエドから色よい返事が聞けない。仕方無いのでこの場で最も人間に近い存在であるサイラスは恐る恐る口を開いた。
「あの〜、俺達、《RuRu》って奴等に目を着けられてて・・・ちょっと今の人数じゃ、奇襲された時とかに体力面でキツイかなって・・・いやホント。たぶん一番に死ぬの俺だから、ホント新人入れて!」
「あー・・・いや、お前の言う事は分からなくもないんだが、今ちょっと俺も取り込んでて・・・あ!そうだ、今日は総督いるし、そっちに相談してみるか?」
そのまま返事を待つこと無くエドは内線を回した。確か総督といったらエド自身の上司でもあった気がするのだが、何普通に電話掛けてんだこの人。
背を向けて受話器を持ち、二言三言話をするエド。
ねぇ、とドルチェが囁くような小さな声で呟いた。
「今回はどんな子が来るかしら。あたし、そろそろ女の子がもう一人くらい増えても良いと思うの」
「そうか?ならお前の希望通り、俺も女の子が増えたら嬉しいぞ」
「秩序的な人物なら何でも良い。フリーダムな存在は2人いれば十分だ」
女子高生か。言い掛けたけど止めた。クラス替え前の学生じゃあるまいし、誰が来たって良い。ようは使い物になりさえすれば。
ガチャリ、受話器を置く音が聞こえて会話が止む。
それとほぼ同時に背後の扉がノックされた。ドアをノックしたその人物は入って良いという返事を待たずしてドアを開け放つ。
「やぁやぁ、久しぶりだね、君達と会うのは。元気にしていたかい?」
色素の薄い短髪に翡翠色の瞳。女性と見間違う程の麗しい容は日焼けを知らない健康的な白い色をしている。粗野な戦闘班とは縁遠い存在にしか見えないその人はやはり美しく微笑んだ。
「ふふ、何か新しい敵に目を着けられたんだって?君達は話題に事欠かないね」
「エリオット総督・・・」
呻くようにギルバードがポツリと溢した。