第1話

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 中立機関・ティノス本部――
 ようやくお家に帰り着いた気分で一息吐いたサイラスは割と真面目に仲間の件を脳内で検討していた。残念な事に今現在を以て2班には人間がいない。古参と呼ばれるサイラスを除いた3人がこの世で2割に満たない純血種で、サイラス自身は人間との混血。
 血の力とは偉大であり、種族とは力。頭の善し悪しは個人によるが、腕力とか体力とか持って生まれたものを越えるのは難しい。それを加味した上で、2班に加わり無理なく活動出来る班員を確保するのが希望である。
 さて、その件に当たり一番に頼れると思われるのが隊長であるレックス。ただし彼は「新人が増える事は歓迎」するが、「新人を増やす為に必要な手順」に関しては興味を示さないだろう。増えたら歓迎するけど、増やす努力はしない、それが彼の本質だ。また、この性質はドルチェにも当て嵌まる。新人がやって来れば面倒は見るが、来ないからと言って行動する事はまずない。
 ――となると、最後に頼れるのは2班を実質運営し、且つ唯一の常識人でもあるギルバードただ一人になる。厳しい発言が多い彼だが、その実班員の中で恐らくは唯一、他人にもそれなりの恩情を掛けてくれる人物でもある。
 ギルバードを捜す道中で会ったドルチェとレックスをスルーし、目当ての人物を捜す。任務上がりで申し訳ないが、体力的な問題で一番に被害を受けるのはサイラス自身。仲間を増やす為ならば多少の疲労にも目を瞑るべきだろう。

「あ、ギルさん!ちょっと今いいか?」

 ギルバードは丁度今、医務室から出て来た所だった。右手には白い湿布が貼られている。視線の先に気付いたのか、大柄な彼はやれやれと言ったように肩を竦めた。

「自然治癒能力は高い方なんだが、魔術で付いた傷はなかなか癒えないな」
「ああ、昨日の・・・」
「それはいい。何か用事が――いや、どうせ新人の話だろう?」

 壁に背中を預けたギルバードは何か思案するように黙り込んだ。増員に関して頭ごなしに否定してこないところを見ると、彼にも何か思うところがあるのだろうか。

「・・・そろそろレックスの報告も終わった頃だろう。エドに会いに行ってみるか」
「あの人、ちょっと不安なんだよなぁ」
「エドを介して上と話せるのであれば、それが一番だろう。まあ、どうせ適当な人材を紹介されて後は好きにしろというオチだろうが」

 ――エド。機関内に数班ある戦闘専門の班の統括官である。と言っても彼自身はただの人間で、ようは任務を割り振ったり作戦指示を出したりと戦闘に直接関与する人物ではないのだが。なお、昨日の夜に入った無線は彼からのものである。
 エドの執務室を目指して移動を始めたギルバードの後に続く。
 ――が、唐突に横合いから2つの影が飛び出して来た。

「あら?珍しい組み合わせねぇ。何?何か楽しい事でもあるの?」
「誰ぞ、夕飯でも一緒に行かないか?」

 ドルチェとレックスである。まったく反対方向から現れた二人のタイミングは目を見張る程にバッチリだった。数歩前を歩いていたギルバードが盛大に舌打ちを漏らす。ああ、何か面倒な事になりそうな予感がする。

「・・・新人斡旋の件で執務室へ行くところだ、別に何も楽しい事は無い。あと、夕飯は後で摂るから一人で行ってくれ」
「新入り!うむうむ、俺も気に掛かる!同行しよう!!」
「はいはーい、面白そうな事はっけーん!全員集合!!」

 凄い勢いで食いついて来た両名に対し、ギルバードだけがげんなりした顔をしている。まるでピクニック気分だからだろうか。
 無邪気に飛んだり跳ねたりして喜びを表しているいい歳した大人達。すれ違っていく事務員だかの不思議そうな視線がだいぶキツイ。