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ぜぇぜぇ、とだらしなく息を切らせているサイラスを尻目にギルバードは小さく溜息を吐いた。一度空を仰ぎ、足下に視線を戻すと大量の硝子を粉砕した後のように粉々に砕けた結晶が散らばっている。
すでに日は高い。あとは段々落ちて行くだけだろう。
本来ならば本部にたどり着き、報告も済ませているような時間だ。しかし、見ての通り事はまったく順調に運んではいない。
「しつこいわね。あたしもいい加減疲れてきたわよ、どうするの?これ」
「目を着けられているな、完全に」
うんざりとしたように片手で額を覆うドルチェ。その顔には疲れの色が濃く浮かんでいる。肉体的にではなく、精神的に疲れている様子だ。
今現在、本部へ帰還する途中なのだが道中なぜか晶獣に出会す出会す。偶然でない事は周知の事実であり、同時にどこから湧いて来ているのかも分からない晶獣を根本から絶つ事も不可能だった。
はぁ、と肉体的に心底疲れ切ったサイラスが溜息を溢す。
「人数、そろそろ増やした方がいいんじゃ・・・」
そんな事言ったってねぇ、とドルチェが肩を竦めた。
「あたし達の班に来た子、すぐに止めちゃうじゃない。これまで何年も保ったの、残念だけれどあなた一人だけなのよ。サイラス」
「そうだよなぁ。ううむ、困った困った!ちなみに、隊長としては新人大歓迎なのだがな!」
「根は深いな。我々は腐っても純血種。混血、ましてや人間が俺達に合わせられる道理は無いし、力の弱い者の弱さも俺達には理解出来ない」
――そう。これまでも班に新人が来た事はあった。幾度と無く。その中で唯一無二の成功例がサイラスであり、それ以外はすぐに根を上げて消えてしまったのだ。班内の陰湿なイジメは無かったと断言しよう。
何にせよ、とレックスは呑気に笑みを溢した。膨大な体力量を誇る我等が隊長はまだ涼しげな体勢を崩さない。
「エドに要相談だな。ま、奴がちゃーんと新人を斡旋してくれるとは思わんが!」
「その為には貴方が報告で上司を納得させる必要があるのだが、それも勿論理解しているんだろうな・・・」
報告の話はしないでくれ、そう言って快活な笑みを浮かべるレックスに多大な不安が押し寄せる。さっきまでは報告など嫌そうにしていたというのに、すでに立ち直ったらしい。