第1話

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 さすがに成果ゼロでは帰れないので男の遺体の検分をしなければならない。優秀優秀、と機関内で持て囃されているというのに捕縛任務一つまともにこなせないとは。脳筋集団の汚名を着せられても抗議できない。

「変わった腕だな。・・・まるで、我々が始末した晶獣のようだ」

 仰向けに転がした遺体。何かとの混血なのだろうが、人間と何が混ざっているのか分からない。クォーターくらいの血の薄さなのだろうか。
 それより目が行くのは変形した右腕。自分達が散々砕き、引き裂いてきた晶獣達の体組織とほぼ一致するだろう。恐ろしいのはその変質した腕をまるで自分のもののように使いこなしていたという事実だ。

「こんなもので、あたし達に傷を付けられるのかしら?玩具にしか見えないけれど」

 言いながらドルチェがつう、と結晶化した男の指先を撫でた。同時、あら、と少しばかり驚いた声を上げる。

「うわ、大丈夫か?は、ハンカチあるぞ」
「いいわ、すぐに塞がる。ただの馬鹿なのかと思っていたけれど、純血種のあたし達を斃す算段そのものはちゃんと持ってたみたいね」

 よく研がれた刃物に触ったように、男の指先がドルチェの指先を傷付けた。サイラスが差し出すハンカチをやんわりと押し返し、傷ついた指先を口内に含む。恐らく、次の瞬間にはその傷は塞がっている事だろう。
 総人口の8割。それが人間と、或いは人外と人間のハーフで占められている。その中で純血種が流す血の一滴にどれだけの価値がある事か。勿体ない、そう溢したレックスが再び男に視線を移す。彼はすでに新たな敵との邂逅に興味を失っているようだった。

「顔色が悪いなぁ、サイラスよ。何ぞ、具合でも悪いのか?」

 隊長の興味はすでに班員へと移った。レックスの言葉にハッとした表情でサイラスがそちらを向く。

「あらあら、そんなにあたしの事心配してくれたの?可愛い子ねぇ」
「回復能力の高い個体なんだ、ドルチェは。お前が心配する事ではないし、そもそも任務中にもっと酷い傷を負った事もあった。他に何か心配事でもあるのか?」
「ちょっと、ギルバード?お楽しみ中なんだから、邪魔をしないでくれる?」

 ドルチェの戯れ言を聞き流す。この面子においてサイラスだけが脆弱だ。同じ班員である以上、一番脆い存在に行動を合わせるのは自明の理だった。
 しかし、サイラスは予想だにしない一言をぽつりと溢した。

「なぁこれ、まさか俺達も・・・何かの拍子に、晶獣になったりしない・・・よな?コイツ見てると実は晶獣って元は人間とか何とかだったんじゃ、って思うんだけど・・・」
「ちょっと恐い事言わないでちょうだいよ!あたし、触っちゃったわよ、コイツに!!」
「う、ごめん・・・」

 パンパン、とレックスが2回手を打つ。そろそろ隊長の言葉に耳を傾けろ、という彼なりのアピールだろう。

「一度機関へ帰るぞ。さすがに怠いし、報告・・・そう、報告をせねば・・・」

 レックスが憂鬱そうに溜息を吐いたのを皮切りに、謎の結晶化した腕の話は一度お開きになった。