第1話

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 締まりのない空間。疲れた脳にはこの緩さが丁度良いものの、たぶん恐らくきっと疲れていないのであろう《RuRu》などという謎の組織を公表した男は苛立ったように地団駄を踏んだ。気持ちは分からなくも無い。

「とにかく!俺の仕事はあんた等の抹殺!行くぜ!」

 グッ、と男が身を屈める。構えの様子から見て、変形している右腕を主軸に戦うのであろう事が容易に読めてしまった。恐ろしく意欲の湧かない戦闘になりそうで今の時点からうんざりしている自分がいる。
 おーい、とこれまた興味を失ったらしいレックスが木に背を預けたまま提案した。

「誰が奴を捕縛するか決めよう。ジャンケンで負けた奴が係だ」
「面倒だし、そんな事してる時間はあるのかしら?一番に向かって来られた子が対応してね」
「俺に飛び火しないでくれってさっきも言っただろ、ドルチェさん!こういう局面で一番に狙われるのはいつも何故か俺――」

 怒りと焦りの双方が臨界を突破したらしい男は呻って飛び掛かった――あろう事か、レックスへと。サイラスは自分の予想がはずれて満足そうだが、飛び火した隊長殿の機嫌はすこぶる悪そうだ。
 しかし最後の仕事が浮いたのは事実。完全に全身の力を抜いたギルバードは申し訳程度に設置されている低めの柵に腰を下ろした。

「こんな歳よりを働かせて・・・後で覚えていろ、サイラス」

 独りごちたレックスが緩やかな動作で頭を下げる。特に速い動きでもないがしかし、その頭上を男の変形した右腕が通過していった。
 そのまま泳いだ男の身体――背後から背骨へと真っ直ぐに手刀を降ろす。当然体勢を崩していた男は避ける事もままならず、そのままその手刀を受けた。

「う、ぐっ・・・!?」
「他愛ないなぁ。これなら帰って朝飯のヨーグルトをキープしていた方がよっぽど有意義な時間だ」

 反対「く」の字に身体が反った男が苦悶の声を上げる。あっはっは、と渇いた笑い声を上げたレックスが男を拘束すべくまずは変形している右腕を押さえ付けた――

「んん?これは――」
「この、野郎ッ!!」

 何を発見したのか。止まったレックスの動きを男は見逃さなかった。瞬きのうちに掴まれた腕を振り解き、月明かりを受けて輝く右腕を振りかざす。
 ハッとしてレックスが目を見開いた。ほぼ同時にポンッ、というどこかリズミカルとさえ思える音が上がる。隣で見ていたドルチェが「ああ・・・」、と残念そうな声を上げた。
 それはきっと反射だったのだろう。反射的に、怪我をすると考えて脳が勝手に反応した。ただし、その反射で繰り出された素の腕力は男に対してあまりにも暴力的だったらしい。というか、彼じゃなくても惨状が広がっていた事はまず間違い無いだろう。

「・・・あー、すまん。つい、うっかりなんだ・・・」
「殺人犯の言い訳はいい。今日の報告は貴方にしてもらおう」

 首と胴が泣き別れしている男の遺体を見下ろし、痛む頭を押さえた。さて、捕縛任務なんて簡単な任務を失敗したお咎めはいかほどのものか。胃も痛んできた。