第1話

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 中立機関・ティノス。
 機関だの中立、だの思わせぶりな名前が付いているがようは傭兵業をしている大規模な組織だ。いつの時代にも変な研究をしている馬鹿とか、要人を暗殺しまくろうとする馬鹿が絶えない世の中なので、機関に入って数十年経つが暇だった事はほぼ無い。給料は良いのだが如何せん、自由な時に自由な時間が取れないのは精神的にくるものがあるが、文句も言っていられないので今日も今日とて一般人に被害が出るどこから発生したのかも分からない晶獣狩りを続けているわけだ。
 ――が、機関メンバーのモチベーションが下がりつつあるのもまた事実。相手がそこそこ強い、とかならマンネリ化も防げたのかもしれないが、相手は猛獣より少し強いくらいの動く無機物。そりゃ単調な作業になってくるわけで、飽きてくるわけなのだ。

「また恐い顔をしているなぁ・・・。何ぞ、気になる事でもあるのか?あ!相手がどんな奴なのか、とかか?」
「それも気に掛かるが・・・出来れば人影は、歴とした人であって欲しいと願っている」
「ほう?その心は?」

 二手に分かれる。そう提案したものの、二手に分かれても探索が粗いのは事実なので見逃しがありそうだ。
 レックスからの質問の答えを用意しつつ、ぼんやりと別の事も考える。任務中、班員はいつも一緒なので多少考え事をしていてもそれを咎める者はいない。慣れってやつだ。

「・・・飼い主まで晶獣の類であれば、この討伐任務には終わりが無くなる事になる。奴等が繁殖する生き物とは考え辛いが、そうでなくとも発生源があるはずだ。それを突き止めるまで、我々はずっとこの面白味も何も無い無機物の相手をしなければならなくなる」
「何だ。お前のような堅物でもそろそろ飽きて来る頃か。だがまぁ、その意見には同意しようか。それにまぁ・・・晶獣というのはアレだ。見ていて不快よな」
「この単調な作業に終止符を打つ為、飼い主は確実に捕らえなければ」
「ううむ・・・。だが猛獣使いとはいつの時代も本人は弱いもの。そう気を詰めずとも気楽にしていればどうだ?」
「貴方は油断が過ぎる。傲りはあまり感心するものではないな・・・」

 じゃり、と砂を踏んだような感覚。ああ、スタート地点に戻って来たのかと嘆息する。という事はこの辺りを粗くではあるが見終わった事となるからだ。現段階で収穫はゼロ。ドルチェ達の方に期待するしか無いだろうが、耳の良い自分でも争う音は聞こえて来ないので彼女等も収穫は無に等しい事だろう。
 不意にガシッとレックスが腕を掴んだ。何なんだ、用があるなら声を掛ければいいのに。
 振り返って抗議しようとすると、彼は人差し指を立てて静かにしろ、とそう囁いた。その視線は先程討伐した晶獣の残骸に注がれている。

「・・・成る程」

 人影が一つ。破壊された晶獣の傍に佇んでいる事に、ようやっと気付いた。目の前にいるのに気付かないとは、少し自分も気が抜けていたのかもしれない。
 明らかにターゲットが『人』である事を認識し、僅かに上がった口角を無意識で隠した。