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一番最初。今日の任務が始まった頃には街にいたのだ。民間人が何人か晶獣によって甚大な被害を被ったようだが、その中の1体が逃亡。それを追ってこの町外れにある高台にまでやって来た。それが今日一日の経緯である。
しかし今となってはこの晶獣がここへ逃げ込んだのはある意味順当な理由だったのだ。
ここに、この場所にあの獣の飼い主がいる。それならば我々に敵わないと悟った飼い犬が主人の下へ逃げ帰ろうとするのは当然の理だ。
「――が、広すぎる。二手に分かれて捜索する事を提案するが、どうだろうか」
「あー、うんうん。それでいいぞ。じゃあギル、俺達は右側から探索してみるとするか?」
「・・・貴方と一緒なのは多大な不安があるな」
何も考えて無さそうにケラケラ笑う隊長を見ていると不安しか覚えない。飼い主とやらが晶獣でない事は分かっているだろうに、この余裕。自信に満ち溢れている、と言えば聞こえは良いがようは相手の事を舐め腐っているのに違い無い。
言いようのない不安に駆られていると自然、サイラスと組む事になったドルチェが妖艶に微笑む。付き合いが長いので特に感じる事は無かったが、彼女の相方であるサイラスは何故か顔を赤くしていた。彼は初心なのだ。
「うっふふふ、不安なのは分かるわ。けれどあたし達のペアが先に飼い主を仕留めるから、全然不安がる事なんて無いのよ?」
挑発めいた物言いに目を輝かせたのはレックスだ。光の角度で色の変わる爬虫類じみたその双眸で嗤う。
「おお!競争か!?競争するのか!?あっはっはっは、歳とは言え俺も負けんぞ!」
「ドルチェさん・・・俺を巻き込まないでくれよ。ホント」
それはいいがな、とメンバーの他愛ない雑談に口を挟む。時間が押しているし、何より忘れてそうなのでもう一度確認する必要があるだろう。ギルバードはうんざりしたように額を押さえながら念を押した。
「対象は『捕獲』だ。間違っても殺すな。飼い主とやらには聞かなければならない事がたくさんある」
一瞬の沈黙。ははは、とレックスが渇いた笑い声を上げた。
「もー!お前はほんっとうに頭が固いなぁ!まさかそんな重要な事、俺が忘れるわけないだろう?」
――嘘くさ。
心中で悪態を吐いたギルバードはこれ以上は相手をしていられない、と踵を返した。もう何分あそこでロスタイムしたか考える気力も湧いてこない。