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街の明かりが遠く眼下に広がる。吹き抜ける風は温く、きっと明日も暑いんだろうなと溜息を吐きたくなってくるようだ。
明日もきっと忙しいに違い無い。と言うのに、何故こんな人里離れた場所で休憩しているのか考えているともの悲しくなってきた。こういう仕事って結局は相手の出方次第だから休日取っても緊急出勤しなきゃいけなくなったりと全然休みがない。いい加減にしろ。
最終的には溜息を吐いて地面を踏みしめる。じゃりじゃりという忌々しい音が鼓膜を叩いた。
「最近、この手の任務多いわよね。えーっと確か何年か前までは年に何度かある程度だったのに、ここ毎月こいつ等の相手してるもの」
ねぇ、そう思わない?ギルバード。そう話を振られて同じ班のメンバーである彼女――ドルチェへと視線を移す。班員は4名。ドルチェは班内の紅一点であり、常々その事を嘆いている。
足下の月明かりで輝く残骸を見やり、彼女の言葉に同意の意を示した。
「そうだな。ここのところ、こいつ等の相手ばかりをしている」
「というかなぁ、こいつ等はどこから湧いてくるんだ?こいつ等はそもそも繁殖するような生き物なのか?俺には無機物に見えるわ」
ハッ、と存在そのものを鼻で嗤う勢い。我等が隊長様は今日も絶好調らしく、朝から晩まで働いても疲れを見せていない。
結晶のように透き通った体躯を持つこの化け物――便宜上、晶獣と呼ばれているこれらは数十年前から存在を確認されていた。しかしその数は少なく、年に数体討伐するだけで出て来なければ存在すら忘れられているような生き物だ。が、去年くらいからその数が膨大に増えた。それはもう、連日晶獣の討伐任務に駆り出される程に。
いやにやる気に溢れていたレックス隊長のせいで原形を留めず、粉々に破壊された晶獣を見下ろす。臓器は愚か、呼吸器も無い。外側から内側まで全てが結晶なのだ。一体どうやって活動しているのか甚だ疑問である。
「これ、俺達が全員出張る必要はあるのか?隊長がちょっと暴れただけでこれなら、俺最早要らないんじゃ・・・」
「あらぁ、そんな事を言うの、坊や。でも上も任務割り振りを測りかねてるってのは事実よ。だって、もしかしたらこの子達――飼い主がいるかもしれないじゃない」
「飼い主・・・」
訪れたのは静寂と仕事が増える気配。考えが及ばなかったわけではないが、現実として突き付けられると些か面倒である。
気怠い空気に満ちた場の雰囲気を破壊するかのように、無線が本部からの連絡を知らせた。無線越しで喋るのが苦手だとかいう意味不明な理由のせいでレックスから押し付けられたその小さな機械を耳に当てる。
「はい。こちら2班。すでに討伐は完了しました、これより帰還しますが何かありましたか?」
『おーう、お疲れお疲れ。朝から晩まで働く社畜は違うねぇ。そんなお前等に嬉しい追加任務のお知らせだ畜生!』
――疲れているんだろうな、と思う。現在の時刻は午前1時。本来なら終業している時間である。こんな時間まで任務を長引かせた事は申し訳無く思うが、追加任務を平気で追加してくるその精神は一切理解出来ない。
しかし無言で続きを促すとすでに出来上がっているであろう上司は悲しげに、眠たそうに言葉を続けた。
『あーっと、今お前等がいるポイント付近に人影があるって偵察班からの連絡だ。晶獣と関係あるかもしれねぇから、今すぐ捜せ。絶対に逃がすな』
「一般人では?街からは差ほど離れてませんよ」
『お前今何時か言ってみろよ・・・』
「・・・深夜1時。すいません、長期任務のせいか時間の感覚が狂っていたようです」
二言三言会話し、無線を切る。思い思いの状態で休憩していた班員達の方を振り返り、今の話を伝えた。