2話 配属先部隊のお兄さんがイケメン

12.上司への報告


 ***

 新人達の初任務終了から3日が経った。
 上司であるトラウゴットが本部へ帰還したという連絡を受けたアーサーは、上司の執務室を訪れている。というのも、直接報告が必要な事項がいくつかあったからだ。

 一通り起きた事の説明を聞いたトラウゴットは鷹揚に頷く。

「概ね把握しました。例の魔物は今、解析待ちという事ですね」
「はい」
「私は今戻ったばかりでその魔物を見ていないのですが、貴方の見立てではどうでしょう? どのような魔物でしたか?」

 問いに一瞬だけ考えたアーサーは口を開いた。

「ちぐはぐな印象でした。生きる為に生まれた魔物ではなさそうです。あまりにも戦闘に特化した機能ばかりが備わっていたかと。見た目も……おおよそ、実在する生き物とは言い難いものでしたね」
「新手のキメラかもしれませんね」
「それにしては、繋ぎ目が綺麗だったというか……。繋ぎ目が分からない魔物でしたよ。継目だけ見ればそういう生き物なのかもしれないと錯覚する程でした」
「繋ぎ目が分かり辛い……やはり、解析を待った方が良さそうです。相手をしてみてどうでしたか? 特部以外では厳しいでしょうか?」
「ええ。特殊部隊持ちになるかと。1体であれば確実に処理可能ですが、複数体出て来られると……我々でも苦戦するでしょう」
「分かりました。解析終了次第、調査の数を倍に増やします」

 ところで、とトラウゴットは険しい顔から一変しうっすらと愉快そうな笑みを浮かべる。

「貴方が受け持っている新人達、調子はどうですか? 私はキリエ以外の子の事をよく知りませんから」
「今は休養中です。試験会場で運良く固まっていたお陰か、同期間の仲は良好のようです」
「仲が良いのは良い事です。色々と抱えている物が多い子達と聞いていますが、よろしく頼みますよ。アーサーくん」
「勿論。個性が豊かで見ていて飽きませんよ。たまには教育係も悪くはないですね。……ただ、一つお伺いしたいのですが」
「うん?」
「キリエの件です」
「彼女、何か粗相でもしでかしましたか? 少し常識外れの行動を取る事がありますから」
「いえ。問題視するような事はまだ何も。ただ……先日の任務後から、もう3日間は飲まず食わずで眠ったままなのです。このまま放置していれば、衰弱死してしまうのではないでしょうか?」

 ああ、と何でも無いような調子で上司は答えた。

「驚かせてしまってすいません。彼女はそういう生態系なのです。命に関わる事はありませんが、こちらが起こして起きるようなものでもありません。自然と起床するのを待ってください」
「特に世話は必要無いと? 医療機関に預ける手続きも俺が取りますが……」
「不要です。心配を掛けてしまって申し訳無い。ですが、起き抜けは色々と記憶を置いてきてしまっているかもしれません」
「ええ?」
「キリエが何か聞いてきたら、何度か説明をしている事柄でも再度、説明を。お願いしますよ」
「了解しました。どのくらい眠ったままなのかは分からないのですか?」
「分かりませんね。彼女の気の向くまま、と言った所でしょうか」
「それは次に起床した時、早めに帰って来るよう言えばどうにかなる問題なのでは?」
「んー……。起きる、寝るのルーチンは彼女に必要なものなので、あまり制限されるのも困ります。急かせば切り替えを早く行ってくれるかもしれませんが、私としては中途半端に覚醒されるより、必要な時間以上に眠っていて貰った方が良いです」
「そういう事でしたら」
「では、よろしくお願いしますよ。他の新人は分かりませんが、彼女の事であればある程度お答えしますので」
「それでは、失礼致します」

 一礼してデスクから離れる。次の任務があるので手早く自室に戻って準備を整え、出発しなければ――

「あ、アーサーくん」
「え」

 ドアノブに手を掛けた瞬間、ノブが取れた。いつもの不運である事は分かるが、ここは上司の部屋。備品破壊など笑い話にもならない。恐る恐る振り返ると、苦笑している屋主が見えた。

「す、すいません……」
「いや、構いませんよ。ノブが直るまで、私も部屋を移りますので。気にしないでください。この間からそのノブ、少し脆くなっていたんですよ。まさか外れるとは思いませんでしたが」

 今日も騒々しい1日になりそうだ。