2話 配属先部隊のお兄さんがイケメン

07.情報の整理


 そこまで言うなら、と納得こそしていないのだろうが存外あっさり引き下がったホルストは眉根を寄せている。一番思考が読みやすくて何よりだ。

「それじゃあ、そろそろ仕入れてきた情報の整理をしよう!」
「では先に」

 このくぐもった声はイルゼのものだ。

「ああ、頼む」
「件の魔物ですが、昼夜問わず出現との情報が上がっています。加えて、襲われるのは食べ物を積んでいる商人の荷車ばかりだそうです。特に肉類が好物のようです」
「君達は市場の方で聞き込みをしていたな。物流を気にするご婦人方の情報か。うん、信頼に価する内容だ。酒場の方はどうだった?」

 はい、と元気良く応じたのはレオンである。輝く笑顔を浮かべた後輩はまた毛色の違う情報を提供してきた。

「こっちは実際にその魔物とやり合った人達から話を聞けました。見た目は完全にこの辺の魔物ではなく、強力な魔法を撃ってきたとかいう話。あと、物理的な攻撃も強力で死亡者が出ているらしいです」
「死亡者……。それは魔法を受けてなのか、別の要因なのかは分かるか?」
「噛み殺された、って聞きましたけど」
「ならば、強靱な顎を持つ魔物という事か。魔法も撃ってくる……。んー、俺はあまり魔物の種類に詳しくないからな、当て嵌まる情報が出て来ない。ただ、平地にはいないような魔物のようだ。見た目というと、どんな見た目なんだ?」
「うーん、言葉だけで想像出来ないような感じでした。聞いた話をそのまま伝えると、ちぐはぐで別の生き物を切り貼りしたような、そんな魔物らしいです」
「分かった」

 アーサーが持って来た情報も後輩達が持って来た情報と同じようなものだ。受け取った情報で思考する。

「――待てよ、確かこの辺りは家畜が多い。肉類を積んだ荷台が襲われやすいのであれば、家畜が襲われて何ら不思議じゃないな。イルゼ、君は家畜の噂について何か聞いていないか?」
「いえ……」
「そうだろうな、俺もだ」

 荷台は襲うのに、家畜は襲わない。考えられる原因がほぼ無いが、無理矢理こじつける事が出来る理由なら存在する。
 精肉された肉しか食った事の無い魔物である。もしくは、家畜より調理された後の肉の方が美味である事を知っている。以上の二点。どちらの理由であったとしても、どちらかが当て嵌まった時点で野生の魔物ではない可能性が強くなるだろう。
 その場合、では人が飼っている魔物という事になるのか? という疑問が湧いてくる訳だが。その疑問が湧いてくると同時に、解答も浮かび上がる。

「酒場組、戦った魔物がキメラだったという情報は無かったか?」
「え? キメラ? いや、そんな事は聞いていませんけど」
「実際に魔物と出会した者から話を聞けた、と言っていたが、君達から見てどうだろう? キメラと魔物の区別が付きそうな者達だったか?」

 キメラ――人間が造った人造の魔物。魔物の長所を集めて組み立てたような外見をしている。風の噂では遂にホムンクルス、人造人間の製作に成功したという罪深い話も聞いた事がある。
 主にキメラという種類の魔物は召喚術を使う魔道士によって飼われているものが大半だ。が、極稀に戦闘時に召喚士が死亡してしまい、キメラを飼育舎に戻せないまま放置されるケースもある。また、飼育されている人造の魔物という観点から見て、生まれてこの方狩りを経験した事の無い魔物だ。つまり、家畜をそのまま襲わない理由にもなる。飼い主が精肉しか与えない飼育の仕方をしているかもしれないからだ。

 意図を察してくれたのはやはりホルストだった。マニアックな知識をきちんと持っているようで何より。

「主観にはなりますが、多分、キメラと魔物の見分けは付く人達だと思いますよ。見た目は冒険者、って感じだったし。あと、何人かに聞いて全員がキメラの話をしなかったっていうのもあります」
「そうか……。しかし、俺の知る知識ではキメラは魔法を撃たないな。やっぱり、全く知らない魔物が出て来ると見ていいか」

 再びアーサーは長考に入った。
 通常部隊向けの任務を取って来たはずだが、何だか雲行きが怪しい。自分一人であれば初見の魔物でもどうにかなりそうな気もするが、後輩達の実力は全くの未知数。4人共、一番の難関である推薦状を突破しているのでそれなりには戦えそうだが――正直な所、それを完全に信用して死亡事故が起きないと確信する程ではない。
 起きる事象で最も困るのが、件の魔物と戦闘になった時、後続を守る余裕がない場合だ。自分の身くらい自分で守れると信じたいが、やっぱりそこまで信頼できない。

 ――だが、それだけの要因で任務を切り上げて帰投する事も出来ないな。
 ちら、と空き時間をリラックスし過ぎの状態で過ごしている新人達を見る。件の魔物とエンカウントすらしていないのに、無理そうという理由で引き上げが出来る程、組織は甘くない。
 やはり一旦対面して、どうしようもなければ同部隊の仲間を一人くらい引き連れて再チャレンジするしかないだろう。何かあれば瞬時に撤退、それで行こう。

「よし! 今からやる事が決まった!」
「わー」

 やんややんやと手を叩く後輩達に今からの作戦を伝える。

「まずは例の魔物に会わないと何も始まらないな。肉を大量に買い込んで、臭いで誘き出してみようぜ!」