2話 配属先部隊のお兄さんがイケメン

04.情報収集開始


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「ここがイダデナ村か。長閑で良いところだ!」

 車から降りて早々、泥の水溜りに片足を突っ込んだアーサーが笑顔でそう言った。左足が大変な事になっており、何なら泥と水のセットで汚れている上に靴も浸水しているだろうに爽やかさは微塵も失っていない。
 流石に見かねた桐絵はおっちょこちょいな先輩の左足について言及した。

「いや、着いたのは良いんですけど。その汚れ、大丈夫ですか? 多分足とか大分気持ち悪い状態だと思うんですけども」
「君は優しいな! だが心配は無用だ。こんな事は日常茶飯事だからな、俺を送ってくれる乗り物には、常に着替えだとか何とかが積んである!」
「えっ!? アーサーさん、それ7番の乗り物ですよね? 俺のには積まれてませんよ、貴方の着替え!」

 ここで大いに慌てたのは運転手だった。彼の役目は本当に運転だけなのか、丁度葉巻を取り出して一服を始めた所であったのだが、アーサーの発言により顔を青ざめさせる。可哀相に。
 運転手の発言に二、三度瞬きした先輩はははっ、と気にした様子もなく笑う。なかなかに強靱なメンタルをお持ちのようだ。

「そうだったか! すまん、俺の早とちりだ! 仕方が無いから、村の中で着れる物を買っておこう! 幸い、今日は財布がある!」

 ――財布がない時があるのだろうか……。
 長財布を片手に爽やかな笑みを浮かべるアーサー。とっても心配になってくる。そう思ったのは聖人レオンくんも一緒だったらしい。眉根を寄せた顔で訊ねる。

「財布はあるけどアーサーさん、それちゃんと中身入ってますか?」
「中身は……おや? 空っぽだな!」
「金貸しますよ……」

 金云々の話でふと思ったのだが、このドリームワールドって金の概念はどうなっているのだろうか。まさか、単位が円って事は無いだろうが如何せん、日本から出た事の無い小娘が視ている夢だ。普通に円単位とかありそうで怖い。
 ――いや、その前に私ってお金持ってるの?
 嫌な予感がする。今、当然のように金の話になるまで金という概念の存在すら忘れていた。アーサーの事を笑えないレベルで通貨もとい貨幣を持っていない可能性がある。

 夢を見始めた時から着ていた服のポケットに手を突っ込む。折りたたみ式の財布らしい何かが指の先に触れた。恐る恐る取り出し、中を見る。

「やっべ、私もお金持ってないわ。何ならカードも何も入って無い、詰んだ」
「え? マジで? 5人で任務に来てて、内2人がノーマネー? 大丈夫かよ、この組織」

 視界の端でホルストが盛大に頭を抱えた。彼の言うことは尤もだ。仲間達が心配になったのか、次から次に自身の財布の中身を確認している。

「ねえ、いい加減村に入るわよ。いつまで外でワイワイやってるつもりなの?」
「イルゼ、私お金持ってないよ。どうしよう」
「今までどんな生活を送って来たのかしら? 今度から部屋を出る時は財布の中身を確認する事ね! 何か困った事があったら言いなさいよ、私はお金持ってるんだから」
「アッハイ」

 ようやく村の中へ足を踏み入れる事が出来た。まさか、金銭問題でこんなに時間を取るとは思わなかった。

 イダデナ村、と言うからあまり色々と期待はしていなかったが意外にも村は活気に溢れていた。とても田舎ではあるが、近隣住民同士でとても仲が良い事が伺える。かつ、バザール形式で出店のようにあらゆるショップが並んでおり、村全体が大きな市場の体を成しているようだ。
 また、木造建築が酷く目立つ。特殊部隊が在籍している機構の本拠点、と呼ばれる場所が石造りだったので目新しくて良い。

 先輩、もといアーサーが拳を握り締める。気合いの入れ方が分かりやすい。

「よし! それじゃあまずは、情報収集をしよう。範囲を決めて、それぞれ住民から『見た事の無い魔物』の情報について集めてくれ! そうだな、俺は一人で問題無いが、君達は2人ずつで組んで貰おうか」

 当然のように何事かあれば金銭を工面してくれるらしいイルゼと共に行動する事となった。であれば、必然的にホルストとレオンで1セットになる。
 速やかに2人組を作った新人達に先輩はうんうん、とご機嫌に頷いた。

「丁度良いな。では、イルゼとキリエは出店が多い場所で聞き込みを。レオンとホルストは酒場付近での聞き込みを頼む! 特に酒場辺りは昼間でも酔っ払いが多いからな。色々と注意してくれよ! 何か面倒事に巻き込まれたら俺を呼んでくれ! 俺は……先に服を調達してくるから。じゃあ、正午頃ここに戻って来てくれよな!」

 それじゃあ、と一方的にそう告げたアーサーは足早に装備を売るような店が建ち並ぶ区画へと消えて行った。先輩を見送ったホルストがぐぐっと背伸びをする。

「じゃ、俺等も行ってくるわ。面倒事とか起こすなよ」
「キリエ、持病が悪化したらすぐ誰かを呼ぶんだぞ!」
「持病!?」

 レオンの言葉にイルゼが眉根を寄せる。何故、持病の部分だけを拾ってしまうのか。病気は病気でも頭のアレなので、命に関わる事は全く無いのだが。
 それを説明するのも気が引けた上、何だか面倒だったので笑って受け流す。どうせ夢なのだし何の問題も無い。

「行こう、イルゼちゃん。すぐに情報が集まるといいなー、人見知りだし。私」
「人見知りはあなたみたいに、緊張感のない態度を取ったりしないわ」
「マジだってー」