3.





 後日談。

 それはイリーナの件が解決してから数日経ったある日の話。
 その日ノエルは訳あってロビーに来ていた。依頼人と会うだけなのだが、この依頼人が随分と時間にルーズでなかなか現れない。受理したのはアーサーなので、後で文句を言ってやろうと思う。
 ぼんやりしていたノエルの視界に二人組が写った。
 一人は緋桜。凛とした佇まいにいつも通り、着物とかいう服を着て堂々とロビーを横切っていく。
 もう一人は灯船。彼女の反対側から出て来た彼は緋桜を見つけた途端、子犬のような笑みを浮かべてばたばたと彼女に手を振る。もちろん、剣士の彼女は非常に嫌そうな顔をした。

「丁度良かったわ、緋桜!」
「・・・何の用だよ」
「これこれ、見てみ!」

 言いながら灯船が右手に握り込んでいたそれを緋桜に見せる。それは電気の光を反射して鈍色に輝いていた。
 ――以前は厳つい男物のデザインだったそれは一回り小さくなったものの、小さなハート型をしている。銀の質感が目で見て分かる程に滑らかだ。

「この間の・・・」
「せやで!さらに加工したから小さくなってもうたけど、ちゃんと銀のペンダントや!」
「へぇ。売るの?まぁ、埒外な値段さえ付けなければ売れそうだな」
「ちゃうちゃう」

 ずいっ、と灯船はその銀を緋桜に押し付けた。彼女は首を傾げながらもされるがままにペンダントのチェーンを握っている。訝しげな顔をする東洋美女とにこにこ笑う鍛冶士。シュールな光景である。

「それ、お前にやるわ。たまには飾りっ気のあるもん使い」
「余計な世話だ、馬鹿」

 ケタケタと笑った灯船はしかし、押し付けたペンダントを返そうとする緋桜の行動に応じる事は無かった。