エピローグ

01.



 灯船と緋桜を見送ったノエルの肩にぽん、と手が置かれる。上げかけた悲鳴を呑み込み振り返れば胡散臭い笑みを浮かべたアーサーが立っていた。
 ――少し元気が無いように見える。

「どうしたの?」
「・・・まぁ、そこらへんのソファに座りなさい」
「えぇ・・・」

 煮え切らない態度。言われるがままにソファに座る。

「お前に言わなければならない事があります」
「はぁ?依頼?それだったら明後日じゃなかったっけ?あ!キャンセルになったんだ!かわいそー」
「違います」

 すっ、と葬式のような顔でアーサーが顔を伏せた。事態が貧窮させられている事に気付く。

「今月――私達が依頼で獲得したものは、あまりにも少なすぎる。まずはあの絵。あれそのものは非常に立派ですが、食っていけません。売る気は無いので、金にならないんです」
「そりゃあ・・・そうだね・・・」
「さらに灯船さんが買った無加工の銀。あれが馬鹿にならない高さでした。そのぶん、依頼主から報酬を貰うはずでしたが、見ての通り返却されました」
「・・・そうだったね」

 しかしあれは不可抗力というものだ。
 そんなノエルの脳裏に、灯船と緋桜が思い浮かぶ。あの鍛冶士は銀が一体幾らするのか分かった上で再加工ペンダントを緋桜に贈ったのだろうか。

「――本題に入ります」
「うーい」
「今月、食べるものが砂糖と塩しかありません。ですが、粗目が一袋だけあります」
「うぁああああぁああああ!?」

 絶叫したノエルの視界の端でアーサーが頭を抱えているのが見える。
 ――これが、バスガヴィルギルドの日常だ。最近羽振りの良い客が多いと思った矢先のこの事態。
 顔を上げた拍子に、先程まで良い雰囲気を醸し出していた東洋二人組が見えた。
 甘い雰囲気とかどこかに捨て去り、驚愕と憤怒の目でアーサーを睨み付けていた。