3.





 何だか久しぶりの気分でギルドへ帰れば、ロビーのソファにアーサーと見知らぬ女性が座っていた。おそらくは彼女が『イリーナ』なのだろう。灯船の目の色が変わった。

「おや、遅かったですね。貴方達が帰って来るのを待っていましたよ」

 クツクツと嗤うアーサーが玄関で棒立ちしているノエル達に向かってそう言う。そのまま、片手でソファを指した。座れ、という事らしい。
 アーサーとイリーナを正面に、それぞれが空いている場所に腰掛ける。イリーナは気まずそうに顔を俯けたままだ。
 気まずい沈黙をいの一番に打ち破ったのは、空気を敢えて読まない人間である灯船だった。少し非難するような目で依頼人を見、指摘する。

「イリーナちゃん、どこにおったん?俺がそんな事まで把握する必要無いけど、勝手にふらふらしたらあかんやろ。心配したんやで?」
「お母さんか!」
「ちゃうわ。鍛冶士や!」

 思わず突っ込めば見当違いの言葉が返ってきた。
 脇道に逸れかけた話を元の線路に戻す為、レインが口を挟む。彼は最近、そういう幹事じみた役割が板に付いてきた。

「ンな事言ってる場合じゃねぇだろ!つか、どこに行こうとそいつの自由だ、口挟んでんじゃねーよっ!」
「レイン君、もうそれはいい。いいから、早く話を進めましょう。貴方から説明しますか?それとも、私が?どちらでも構いませんよ」
「・・・お願いします」

 そう言ってアーサーに頭を下げたイリーナは再び顔を俯かせる。困っている、というよりは悲しんでいる、が正しい表現かもしれない。彼女の顔色はお世辞にも良いとは言えなかった。
 承知しました、と頷いてみせたギルドのリーダーは淡々と言葉を吐き出す。

「イリーナさんが灯船さんに依頼したというペンダントの話です。聞いていてくださいよ、鍛冶士殿」
「おう。ええからとっとと話しぃ」
「クーリングオフの話です。創ったペンダントを彼女は受け取れなくなってしまったので、依頼は無かった事にしていただきたい」
「・・・はい!?ちょ、それはあかんやろ!銀やで、銀!俺今、無一文なんやで!?銀じゃ食ってけへんやろ!!」

 灯船の悲痛な叫び声。しかし、依頼を受けた身であるアーサーには当然の如く通じなかった。それどころか、双眸を爛々と輝かせる。今の彼は恐らく、如何にして灯船の首を縦に振らせるかで頭一杯だろう。