3.





 三つ目の拠点――はすでに制圧済みだった。というか、うちの手練れが3人も集まっている時点でゴロツキの集まりみたいな盗賊など敵では無かった。イアンが加わった事で遠距離補助が増えた。それにより、魔法・飛び道具が恐るるに足らない攻撃法へと成り下がってしまった事も一つの要因だろう。
 再び盗賊団の頭に詰め寄っているヴォルフを尻目に、イアンが呑気な欠伸をする。

「なんかー・・・骨が無い・・・っていうかー・・・全然つまらない、なぁ・・・・」
「盗賊なんてそんなもんだろ。私一人だったら絶対に引き受けてないな。そうだろ、ノエル?」
「いや・・・私は依頼を選べる範囲が狭いから何とも・・・」

 襟首を掴まれ揺さぶられているお頭を哀れみの目で見る。盗賊団の長として鎮座していた彼はうっすら目の端に涙を溜め、顔は恐怖に歪んでいた。かく言うノエルも、仲間とは言えヴォルフに脅されたらきっと泣き喚くだろう。
 緋桜とイアンに関しては、そもそもそんなミスはしないだろうが。

「イリーナ!?あいつなら、金持ちっぽい男が連れて行ったぞ!」

 まさかイリーナの所在が掴めると思ってなかった女性陣は声がした方を振り向いた。喚いているのは先程からヴォルフに締め上げられている盗賊団のお頭だ。

「どういう事だ?いやそもそも、何故、彼女はここにいたんだ。誘拐したのか?」
「むしろ訊くけどあんた等は何でうちを襲おうと思ったんだよ!?見込み調査とかそんな感じですらないと!?」

 彼の話を要約するとこういう事だった。
 偶然にもイリーナの恋人がここの盗賊団に入っており、彼を捜しに来た彼女がここへ潜入。誘拐でも何でも無く、彼女が自ら望んで来たらしい。しかし、イリーナは恋人へ会う為にここへ来たのだが、その際何やら揉めていたようだ。
 やがて、拠点の入り口が破壊されたと思えば、『金持ちっぽい男』が侵入。そのままイリーナを連れて行ってしまったらしい。

「え、えぇ・・・」

 それを聞いたノエルは顔を真っ青にした。『金持ちっぽい男』で出て来る顔がアーサー以外にあり得ないというはた迷惑な思考により。
 部外者である彼を完全に巻き込む形での思い込み。損をするのもまたアーサーだけである。

「あ・・・あの、さぁ・・・言いにくいけど・・・それって、アーサーじゃね?」
「・・・せやん!あのスカシ野郎に特徴とかそっくりやで!?」
「おい待て!お前達は特徴が『金持ちの男』というだけで犯人が特定出来るのか!?」

 ヴォルフがもっともな言葉を吐き出す。レイン=ブラウンがいない今、常識人は彼だけだった。

「絶対アーサーだろ。あいつ、何考えてるか分からないし」
「そーですよぅ・・・。そういえばー・・・今日、アーサーさん・・・ギルドに・・・・いません、でした・・・・よー」
「うっわ、どんぴしゃじゃん!ほら、帰ろう、ギルドに!!」

 くるり、と踵を返したノエルはしかし、そこではたと足を止めた。

「待てよ!お前等、イリーナを捜してるんだろ!?」

 息を切らしたレイン=ブラウンが出口に立っていた。