2.





 盗賊頭との戦闘。
 それはつまり、ボス戦ってやつだろう。というか、拠点の奥の奥に構えているなんてそれを意識したとしか思えない。
 そんな盗賊頭の前に立ちはだかるのは4名。しかしうち2人は戦闘員ではないので大した事は出来ないだろう。こんなメンバーで大丈夫だろうか、とノエルは不安を覚えた。いくら緋桜とヴォルフが強いからと言って、この見た感じとても強そうな大男に勝てるだろうか。
 そう考えている事が伝わったのか、緋桜が朗らかに笑った。

「何不安そうにしてるんだ、ノエル。大丈夫だろ、何て言っても私がいるんだからさ」
「すっごく心配・・・。負けそうになったら私は一番に逃げるからね」
「おう、そうしろ。その方が安全だ。私達が勝てないものを、ノエルが勝てるわけないからね」

 話は後にしろ、とヴォルフが静かに窘める。盗賊頭が立ち上がった。手には刀剣を持っており、どう見たって仕掛けて来る気満々である。

「よし、相手は武器持ってるし、私が一番槍って事で!」
「あ!?ちょ、待て緋桜――」

 ヴォルフの制止の声も聞かず、弾丸のような速さで緋桜が疾走する。その手にはすでに抜き身の刀が握られており、彼女もやる気満々である。

「灯船さん、あれ止めないと――」
「無茶言うなや!落ち着け、緋桜!まだ人生長いぞ!?」
「意味が分からないよ!!」

 ふん、と鼻で嗤った盗賊頭が剣を振るう――
 それは存外あっさり宙を斬った。縦に振り下ろされたそれを横に前に避ける事で剣先を回避したと同時、緋桜が相手の懐に潜り込む。それは目を見張る程に鮮やかな動きだった。
 攻撃を仕掛けた本人である盗賊頭も驚きに目を見開いている。下がるのではなく、進む、回避。一閃が避けられたが故に呼び込んだ危機である。
 などと思っているうちに緋桜が持っていた刀を薙いだ。パッ、と緋色が散る。
 そんなこんなで、盗賊頭という立派なボスキャラは僅か数十秒で倒され、僧侶達はそのさまを薄ら寒い気分で眺めていた。
 そうしてお待ちかね、ヴォルフによる尋問タイム。

「おい、お前!イリーナという女性はどこだ!?」

 怪我人を首が取れそうな程に揺すりながら問う。ヴォルフの握力を前に目を白黒させていた盗賊頭は悲鳴を上げるように弁解した。

「し、知らねぇよ!つか痛ぇわ!離せ!!」
「黙れ!俺達は人捜しをしているんだ!お前達が人攫いに精を出している事は知っている!大人しくイリーナについて話せ!」

 だから、と盗賊頭は絶叫した。

「イリーナって誰だよッ!!」

 その発言を聞き、灯船が肩を竦める。

「一つ目は外れみたいやわ。さ、次行こうか」
「ねぇねぇ・・・あのさ、私、帰っていいかな・・・。すでにやる気が底辺をさ迷ってるんだけど」
「駄目に決まってるだろノエル。今日は私と依頼こなすって決めてたのに」

 そう言うなら誰か私のやる気に火を着けてくれ。ノエルの言葉はもちろん、誰にも届かなかった。