2.





 風切りの森――といってもその入り口付近に盗賊達の拠点はあった。例の見張りらしき彼等は邪魔だったし面倒だったのであの場に放置だ。男手が足りないので運べなかった。

「へぇ、ここが・・・熊が冬眠する為の穴蔵みたいだね」
「盗賊の拠点なんてそんなものだよ。さて、先鋒は私とヴォルフでいいだろ?」

 邪悪としか言いようのない笑みを浮かべた緋桜が問う。問われたヴォルフは一応、一瞬だけ考えて静かに頷いた。

「それがいいだろうな。後ろに敵は残さないようにするが・・・万が一の場合はお前がフォローしろ、灯船」
「分かっとるで!まぁ、任せとき!」
「心配だなぁ・・・」

 歩きながら結界でも張っておこう。身の危険を感じたノエルはそう心中で誓った。取りこぼしなど無い方が良いが。
 行くか、と緋桜はぐぐっと背伸びをした。直ぐさま刀の柄に片手を掛ける。

「私は取りこぼしたりなんかしない。から、ノエル。私の後ろに着いて来い。ヴォルフは荒い。腕をぶんぶん振り回すからな」
「はーい」

 頷けば先頭切って緋桜が飛び出した――真正面から。何の遠慮も無く、戦略すらなく。目を見張ったノエルだったが、溜息を吐きたいような顔をしたヴォルフが後に続いたので変な行動では無かったのだと悟る。
 戦闘力をあまり持たない灯船ですら、その光景に興奮したような声を上げた。彼は鍛冶士やってるより戦前に立つ方がいいんじゃなかろうか。

「見張りがいるな――右は任せる、緋桜」
「了解」

 並んで走ってくる男女に見張りの盗賊が奇声を上げる。表情からして驚いているらしい。そりゃそうだ。ここからはよく見えないが、鬼のような顔をしているであろう二人組が滑るように全力疾走してくれば誰でも驚愕する。
 ――そして、本日二度目。緋桜の腰の辺りから鈍色が一閃したと思えば入り口右に立っていた片方が倒れる。
 格闘家であるヴォルフは超接近型なので一瞬で距離を詰めたかと思えば息を呑む暇も無く左の見張りを殴り倒した。その手には輝くメリケンサックが着けられている。何が言いたいかというと、痛そうだ。

「強いなぁ」
「まったくや。ま、俺は鍛冶士やから強なくてええんやけどな!」
「そりゃ私も僧侶だから別に強くなくていいけど・・・」

 そこからは彼等の無双状態だった。
 穴蔵のようだ、とノエルが比喩した拠点の中は割としっかりした造りをしており、所々補強されて要塞のような有様だ。しかし、人が3人並んで通れるぐらいの通路の幅はむしろ、こちらにとって有利過ぎた。
 モーセが海を割るように、蟻のように湧いて来た盗賊達を蹴散らし踏みつけ、斬り裂いて進む進む。ノエル達は後ろから走って着いて行くだけでよかった。
 取りこぼしなんてとんでもない。通路が狭いお陰でそうはならなかったのだ。

「――お、何か行き当たったな。とうとう」
「緋桜、愉しそうに言うな。不謹慎だ・・・」

 目の前に聳えるのはまるで今からボスでも出て来ます、と言わんばかりの巨大な扉だった。