2.





 ちょっと大きな盗賊団、なるものがどのくらいの大きさなのかは見当も付かなかったが、緋桜の嬉々とした口調からして中途半端なそれでない事だけは察するべきだった。いや、後悔なんて何の足しにもならないのでするだけ無駄だったりするのだが。
 目的があるのか無いのか分からないままに進んでいた道中、怪しげな男に声を掛けられた。向こうは二人組、こちらは非戦闘員も合わせて4人組。数の上では有利だ。

「てめぇら何の用があってこの森にいるんだぁ?へへっ、女もいるしよ・・・」

 手には量産品の安っぽい剣が握られている。柄が悪いし、どう見積もっても『良い人』でないのは確かだった。色々セオリーに当て嵌まり過ぎているところが如何にも三流っぽい。
 どうしよう、という意を込めて緋桜を見やったノエルはそれを心底後悔した。彼女はノエルの身を護るなどと宣言しておきながら、今はもう唐突に現れた二人組の男に視線は釘付け。トキメキなんて欠片も無い、肉食獣が獲物を狙うようなそれだったが。

「・・・ヴォルフさん。どうしよう、これ」
「恐らく、例の盗賊団の見張りか何かだろう。意外と大きな盗賊団だからな」
「だからどのくらいの大きさなんだよそれは」
「――緋桜。襲い掛かっていいから、殺すな。こいつ等に拠点の場所を訊こう。それが手っ取り早い」

 了解、と元気いっぱいにそう言った緋桜が間髪を入れず地を蹴る。腰に帯びた刀なる東洋の剣はまだ抜かれていない。柄に手を掛けた状態のままである。

「ちょ、いきなり・・・!大丈夫なんか、あいつ!?」

 ぎょっとした顔の灯船から肩を掴まれる。彼は一応、背にアックスを持っているが使う機会は無いだろう。そもそも、彼は厳密に言えば鍛冶士であり戦闘員ではない。
 どう見ても戦闘慣れしていない彼の言葉に言葉を返す。

「えーっと・・・大丈夫じゃない?たぶん」
「たぶん!?やから緋桜からは目ぇ離せんのや!大丈夫なん、あの子!?」
「ちょ、不安を煽らないでよ!私まで心配になってくるでしょ!?」

 灯船の同様により湧いた不安はやはり杞憂に終わった。彼女は我がギルドの誇るべき剣士である。
 馬鹿正直に二人の間へ飛び込んだ緋桜の右手は刀の柄を。左手は鞘を。それが同時に反対方向へ滑らかに動いたと知覚した同時。手と手の間から鈍色が反射する。
 ――刀身だ、と理解したその瞬間に全ては終わっていた。抜き放たれた鈍色はすでに赤を纏い、男達が呻いて倒れていたからだ。まさに、一閃。速過ぎて何が起きたのかさっぱり分からなかった。しかし、隣に立つ灯船は違ったらしい。

「居合いかぁ・・・こっちの大陸来て、久々に見たわ。ええもん見たな」
「居合い?」
「俺、剣士やないから上手く説明できへんけど、あれがそうなんや」

 速過ぎて見えなかった、とそう言えば鍛冶士に苦笑された。かわええな、と言われたが非常にムカついたのは言うまでも無い。

「お前達に訊きたい事が――おい、起きろッ!!」

 その後、斬り付けられて気を失っている盗賊達を無理矢理叩き起こしたヴォルフが拷問紛いの方法で拠点の場所を聞き出したのだった。