2.





 出掛ける前からすでに疲れ切ったヴォルフを先頭に、灯船の依頼を解決すべく拠点を後にする。正直、これだけ役者が揃っていれば最早遠足気分だ。ちょっと上等な武器を持っただけの盗賊相手など恐くも何とも無い。
 ――ただ、今から行われるであろう盗賊一掃クエストには憂鬱さを隠しきれないが。

「浮かない顔だね、ノエル」
「そりゃそうだよ・・・。盗賊退治なんて割に合わないし」

 はははっ、と緋桜が軽快に笑う。彼女のどこから出て来るのか分からない自信と安心感は目を見張るものがあるが、今それをされても苛立ちに拍車を掛けるだけだ。
 そんなノエルの心中に気付かないのか、或いは気付くつもりもないのか優しげに微笑んだ緋桜は頼もしい言葉を次から次へと吐き出す。

「心配するなって。灯船とヴォルフがどうなったとしても、お前には私が付いてるだろ?」
「頼もしいのは結構だけど・・・私達の本来のクエスト、人捜しだから」
「あぁ。そうだったっけ?」

 そうだよ、と頷き前を歩くヴォルフに視線を移す。彼は頑なに後ろを振り返ろうとしないが、それは当然である。彼の天敵である女が2人並んで歩いていれば振り返る気も起きない事だろう。
 悪いとは思いつつ、その背にノエルは言葉を投げ掛けた。現在どうしても気になっている事があるが、灯船や緋桜に問うても「分からない」と一言で片付けられそうなので。

「えーっと、ヴォルフ?」
「・・・あー・・・何だ?」

 あからさまに嫌そうな声が帰って来た。それに気付かないふりをして、何気ない調子で話を続ける。

「今、どこに向かっているの?私、目的地を聞いてないんだけど」
「そうだったか。向かっている先は《風切り森》だ」
「えっ。そこ嫌いだなぁ・・・」
「だが盗賊が一番潜伏しているポイントだ。我慢しろ」

 風切り森。
 森であるにもかかわらず常に強風が木々の間を吹き抜け、まるで風を切っているような音が絶え間なく響き続ける森だ。昼間でも薄暗く、戦闘能力を持たないノエルが1人では決して近づかない場所である。
 そこ、知ってるぜ、と嬉々とした口調の緋桜が言った。

「今、ちょっと大きな盗賊団が巣くってるらしい」