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「詳しい依頼内容、話すで」

 この場に集まった――完全にその場凌ぎメンバーを前に、灯船が嬉々とした声で言った。彼は人間さえ集まれば何でもいいらしい。

「俺が捜してんのは、元々は俺の依頼人やった女の子やねん」
「何の依頼を受けていたんだ?単独クエスト、という事は鍛冶関係か?」
「そうそう。なかなか鋭いな、ヴォルフ。んで、その子――イリーナちゃん言うんやけど、銀のペンダントを作るように頼まれてん」

 ペンダント、と首を傾げる。

「オーダーメイド、って事?お金持ちなんだねぇ」
「ノエルちゃん他に言うことあらへんの?何と言うか、自分なかなかシビアやなあ。ま、大体それで合ってんねん。男物やったから良い人にでも渡すんやろな」

 ということは、と緋桜が言葉を遮る。

「お前が捜してるのは、そのイリーナとかいう女の子なんだな?」
「そぉいうこと。ま、女の子って歳でもないんやけどね。本当は3日前に受け渡しのはずやってんけど、一向に現れん。何か事件にでも巻き込まれたんとちゃうかなぁ・・・思て」
「そういえば、誘拐事件が流行っているな」
「そうだね。ま、誘拐事件そのものはだいたいいつでも流行ってるけれど」
「盗賊団が増えたからだろ。確か、イアンが討伐依頼来ないかなってうきうきしてたよ」

 灯船の言葉に各々まったくバラバラな反応を見せる。ヴォルフは非常に真剣な顔、ノエルはほとんど他人事、緋桜はイアンの心配である。
 そして当の本人である灯船は呑気な笑みを浮かべている。
 依頼の話に戻そう、と厳かな風にヴォルフが軌道修正。

「残念だが、灯船、お前の依頼を受ける事が出来なくなった」
「えぇ!?何でや!」
「盗賊が絡むという事は、人捜し依頼ではなく討伐依頼になる。お前にとっては大事な客だろうが、俺達にはそれを引き受ける義理が無い」
「おまっ、ほんま酷いわぁ!」
「酷いとか酷くないとか言う問題じゃない。人捜し依頼と討伐依頼では報酬の桁が違うだろう」

 本来、盗賊の討伐依頼などは国が資金を出して行われる。それもあまりに盗賊が目に付いた時だけで、基本的には盗賊云々の件に関してギルドが関わる事は無いのだ。
 しかしそこで、それまで依頼に消極的だった緋桜が口を挟んだ。

「女の子が困ってるんだから、いいだろ。ちょっとぐらい引き受けてやろうよ。可哀相」
「情に厚いのは結構だがな、この依頼を受けるのならノエルは連れて行けないぞ」
「大丈夫だろ。私がちゃんと見てるから」

 ――出来ればこのまま依頼が流れるか、武闘派達だけで行って欲しい。というのが本音だ。が、そうはなりそうにない。緋桜はもともと、ノエルと依頼をしたいが為にこの場にいるのだから。
 彼女は無類の女好きだ。恋愛的な意味は無いが、女の子は正義、思考なのだ。だから正直、灯船が『イリーナ』などという女性名を呟いた時からこうなる事は予見していた。
 ともあれ、唐突な緋桜の執着にヴォルフは困っているようだった。当然である。

「・・・なら、どうするんだ。緋桜」
「簡単な事さね。盗賊様のアジトを一軒一軒調べればいい」
「向かって来たら討伐依頼にチェンジする事になるだろう!それは!!」

 タダ働きはごめんだ、とヴォルフが悲鳴を上げる。言い方は違えど、緋桜が言う事はそういう事だ。
 とても可笑しい事を言っているのは灯船達東洋組なのに、数の暴力とは恐ろしいものだ。どれだけヴォルフが正論を説こうとも、2人居る方が強いのだから。

「くっ・・・!ノエル!お前は、行きたくないだろう!?」
「いや、どっちでもいいけど」

 行きたいのが2人。反対が1人。そして、中間が1人。こうして、実に呆気なく灯船の言う『人捜しクエスト』は受理されたのだった。