1.





「俺からの人捜しクエストや!!」

 ――間。薄ら寒い沈黙が空間を支配した。
 何と反応していいか分からず、隣に立つ緋桜を伺う。彼女もまた酷く冷め切った顔で灯船を見ていた。呆れて物も言えない、と表情から伝わってくる。
 さらに空気が読めなかったのか、或いは聞こえていなかったと勘違いしたのか、鍛冶士はもう一度、さっきよりも力を込めて言い放った。

「俺からの!人捜し、クエストやでぇ!」

 はっ、と緋桜が我に返る。そして帰った瞬間、素早く彼女の右手が動き自然な流れで灯船の頭を叩いた。容赦なんてものは欠片も無かった。

「はぁ?お前寝惚けてるのか?何で、自分のギルドで自分の依頼提出してんだよ。どうして私達が身内の依頼を解決しなきゃならないんだよ。うちは偽善事業じゃないわ!!」

 残念ながらノエルに口を挟む余地は無かった。緋桜の言う通りだったからだ。それに灯船を擁護する義理も理由も無い。何でこの人は人格者なのにこんな馬鹿な発言をさらっ、と口に出来るのか。
 この依頼は流れる――
 そう本能が告げていたというか、そういう場の空気だったのだが、エア・クラッシャーたる鍛冶士にそんな事は関係無かった。ノエルに言ったのでは駄目だと判断したのか、緋桜へ泣きつくいい大人。

「ホント、頼むわ!俺、鍛冶士やから。人捜しとか出来へんねん!なぁ、ノエルちゃん!ノエルちゃんからも言ってくれん?探し物得意やん、ノエルちゃん!!」
「いや、私に言われても・・・」
「人捜しなんて面倒な事誰がやるか。そんな面倒事に、ノエルを付き合わせるわけないだろ。今日は私と一日中遊ぶ約束してるんだよ!」
「あれ!?したかな、そんな約束!ていうか緋桜ちゃん!?目!目、泳いでるから!!吐くならもっと上手く嘘吐きなよ!!」

 わいわい、とロビーで騒いでいると不意に男部屋へ繋がるドアが開いた。自分達以外の人間がいるとは思わず、喧騒が止む。
 戸口の所に立っていたのはこの場にいる誰よりもゴツイ男だった。単純に灯船と比較してみれば、一回り以上の体格差がある。赤毛を撫で付けたような髪型と、気難しそうな顔。歳の割に老けて見える彼は――ヴォルフガング。通称、ヴォルフ。

「お前達は――何をしている?部屋にまで声が響いていたぞ」

 規律を重んじる彼の言葉が朗々と響き渡る。灯船が顔を青ざめさせ、緋桜が小さく舌打ち。ノエルは他人のふりを繕った。

「揉めているようだな――話を聞こう。こういう場合、第三者がいた方がいいだろう?」

 勝手にそう決めつけ、少し疲れているらしいヴォルフが席の空いている場所にどっかり腰掛けた。