1.





 茶色で癖のある短髪に鳶色の瞳。やや小柄な体格。
 緋桜に続く東洋人の灯船はこの真冬にダラダラと汗を掻きながら満面の笑みを浮かべていた。

「なんでそんなに汗まみれなの、灯船さん・・・」
「いや、それがなぁ、ノエルちゃん!俺、今まで仕事やったん。工房クソ暑いわぁ。まぁ、仕方ないんやけど」
「贅沢言うな」

 などと言いつつも緋桜がタオルを彼へ投げつける。上手くキャッチ出来ず、そのタオルが顔にヒットした灯船はしかし、ありがとう、とご機嫌である。
 この二人の関係性は酷く複雑だ。灯船が一方的な――血の繋がりが無い兄妹愛を注ぐのに対し、彼女の方はそれを心底鬱陶しそうに受け取っている、ような。

「で、なんでここに来たんだよ、灯船」
「せやった!あんた等、暇なんやろ?お兄さんの話聞いて欲しいんや」
「はぁ?」

 あからさまに嫌そうな顔をした緋桜だったが、お構いなしに――聞くとも言っていないのに鍛冶士は話を続ける。ほとんど強引に。

「ちょ、クエスト!受けて欲しいんやけど!」
「依頼?誰からのだよ」
「なんで緋桜そんな喧嘩腰なん!?もうちょっと俺の話聞いてや!」
「お前は碌な話持って来ないんだよ」
「とか言いつつ受けてくれるって、俺は知っとるで!」
「は?何でお前はそう――」
「話が進まないから!ちょっと一旦止めて!痴話げんかは余所でやってよね!!」

 慌てて仲裁に入る。彼等は放っておくと無限大にこうやって言い争いを続けるのだから困りものだ。二人が少し反省するように黙り込んだ一瞬を見逃さず、畳み掛けるように言葉を紡ぐ。

「それで、灯船さん。誰の、どんな依頼なの?他の人達と違って、私に出来る事は限られてるから二つ返事で分かったって言うわけにはいかないよ」
「あ。私はノエルが行かないなら行かないから」
「殺生な!ま、でもその辺抜かりはないで」

 彼が語った事実は驚愕だった――というより、呆れ返るようなものだった。