5.





「報酬、どれにするの?」

 いつまでもこの屋敷にいるわけにはいかない、という意味を込めてノエルは問うた。やや考えた貴族はややあって首をゆるゆると横に振る。

「選んで構いませんよ。あ、ギルドに飾る予定なので適当に選ばないように」
「飾るの?汚したりしないかな・・・」
「何の為に額縁付いてると思ってんだよ」

 そんな事を言い合いながらも、選択権をアーサーから受け取ったノエルはずらりと並ぶ絵達に視線を移す。レインが「なんでノエルに!」などとほざくかと思われたが、存外と彼は大人しかった。ただ、意味ありげにアーサーをチラチラと見ていただけで。
 それがどういう意味だったのかは知らないが。

「あ!これいいなー。何て言う花?」
「それはスイカズラですよ」

 にこりと笑って答えるトレイシー嬢。どうやら、自分は小さな花が好きらしい、と指さした絵を再び見る。

「タイトルは『友愛』だな」

 ぼそっ、とレインが呟いたのが耳に入った。
 ――友愛。何て素敵な言葉だろうか。うちのギルドにはまったく似つかわしくない言葉だが。
 拠点の中に『友愛』のスイカズラが飾られている様を想像して笑う。滑稽な事この上無い。しかし、その滑稽さが逆に良い。それでこそ我がギルドだ、と思える。

「趣味悪ぃぞ、ノエル」
「煩いな。・・・そんなレインも、想像しちゃったんでしょ。ニヤニヤしないでよ気持ち悪いな」
「おまっ・・・本当、俺の扱い酷いよな。どいつもこいつも」
「よし決めた!これにします!!」

 びしっ、とスイカズラを指さす。これを戒めとしてギルドの壁に飾れば、もう少し協調性が生まれるかもしれない。恐らく、というか絶対に無理だろうけど。
 そんなノエルの決定に不満の声を上げたのは、選択権を渡した貴族その人だった。

「ちょ、こっちにしませんか!?」
「バラ?いやだよ、派手だもの」
「・・・・」
「そんな顔したって駄目だよ。女の子が必ずしもバラが好きだとは限らないでしょ」
「ちっ・・・。てめぇのどこら辺が女なんだよクソが」
「はい!?よく聞こえなかったなー!ちょっと表へ出ようか似非紳士野郎がッ!!」

 落ち着けよ、と呆れたように割って入るレイン。トレイシー嬢はその様を見てくすくすと楽しそうに笑っていた。彼女は将来、きっと大物になる事だろう。
 再び、アーサーが苦し紛れに指さした絵を見る。
 ――毒々しい程に赤い薔薇だった。わざとオーバーに赤をのせているのが素人目にも分かる。ただし、一体それにより何を強調したかったのかは、分からないのだが。
 結局、ノエルが下したスイカズラの決断は変わることなど無かった。レインが貴族の敵であった事が大きいだろう。
 そんな報酬を貰った帰り道。
 心底不機嫌になったアーサーが先頭を歩いていたのだが、不意に少し前を歩いていたレインが歩調を遅め、隣に並んできた。

「お前さ、さっきのバラの絵のタイトル、見たか?」
「見てないよ」
「・・・タイトルは『愛』だぜ」
「へぇ、そうなんだ」

 だから何だよ、という意を込めてレインを見返せば彼は苦笑した。そして、それだけだった。