5.





 後日、依頼の報酬を受け取る為にノエル、アーサー、レインの3名はトレイシー邸を訪れていた。イアンは報酬などに興味は無いらしく、着いて来るのを拒否。それだけでは飽きたらず、他メンバーと別の依頼へ出かけてしまった。
 レインはというと、どんな報酬が貰えるのか気になったらしく、同行。彼はアーサーの勝手さに随分と腹を立て酷く不機嫌な状態だ。

「ねぇ、何が貰えるの?トレイシーさん、帰って来ないけど」
「絵ですよ。美術館から奪還してきた絵は貰えませんが、他の絵ならば好きな物を持っていっていいそうです」
「何が奪還だよ!強奪の間違いだろーがッ!」
「黙りなさい、レイン君」

 報酬の品を準備しているらしいトレイシー嬢の姿は見えない。
 ――が、一時すれば例の執事がやって来た。別室へ案内される。

「お待たせしました。さ、どうぞお選びください」

 朗らかに微笑んだトレイシーがずらりと並んだ名画を手で指し示す。部屋一杯に飾られたそれは、《トレイシー》の生涯そのものだ。
 ぐるりと見回す。花の絵が多かった。花壇も色取り取りの花で飾られていたし、植物が好きなのかもしれない。

「選ぶのもいいけれど、私達が美術館から取り返して来た絵も見てみたいなぁ」
「あ、見ますか?」
「え、いいんですか?」
「構いませんよ。人の目に触れさせたくないわけではありませんから――じい!」
「はっ!少々お待ちを」

 言うや否や、執事がドアの向こうの廊下へ消えた。ややあって、転がる台座に乗せた絵を持って来る。布が掛けられたそれは確かに、ノエルが四苦八苦しながら運んだ絵である。
 一番興味を持ちそうなアーサーはしかし、それを半眼で見ていた。

「気にならないの、アーサー」
「私はどんな絵なのか知っているのですよ。美術館で拝見して来ましたから」
「えぇ、何それズルイ。そんな簡単に見られるなら、私も見たかったんだけど」

 そうだぞ、と便乗して来たのはレインだった。彼は今日、何かと貴族様に突っ掛かるのだ。そんな貴族が呆れた瞳に魔道士を写す。

「俺等はどんな絵かも知らず、護衛クエスト受けてたんだぜ。何自分だけ見てやがる」
「・・・いえ。絵の意味を知れば、いくら馬鹿な君達でも私がやらんとする事に気付いていただろうから」

 レインと揃って首を傾げていれば、何の合図も無く絵を隠す布が取られる。金の額縁に入ったその絵は――やはり、花の絵だった。
 白い花だ。それに、現物を見た事がある。

「――フリージア・・・」
「えぇ。ただの模写ならば、写真と何ら変わりはありませんが――やはり、絵には絵の良さがある」

 そんな自称紳士の言葉が右から左へ抜けていく。それ以上に、ノエルの目はタイトルに釘付けだったのだ。

「タイトル、『親愛』・・・。そっか、父親が娘に送る餞だった、ってわけね。そりゃあ、勝手に美術館に飾られるなんて冗談じゃ無いなぁ」
「そういう訳です。まさに親子愛って奴ですね。フリージアの花言葉が、タイトル」