4.





 何やらただならぬ事態になって来たが、悠然と佇むバーサーカーの背後から出て来たのは強盗(仮)らしき人だった。例の制服を着ているし、困ったような顔をしている。まるで、被害者のような。
 無表情の顔を、それでも精一杯に歪めたイアンが唐突に言った。

「アーサーさん・・・ノエルちゃんをー・・・・・こちらへ返してくださいよぅ。あなた、いつも碌な事しませんよねー・・・」

 すでに弓を片付け、その両手にナイフを装備した彼女。言う事を聞かなければ襲い掛かるぞ、と無言で宣言しているようだった。
 どうしたものか、と貴族と狩猟族、双方を交互に眺めるノエル。何だか、自分の一挙一動が今後に深く関わって来そうな場面である。正直、勘弁してくれとそう思う。
 はっ、とイアンの発言を鼻で嗤ったのは言うまでも無く貴族様だ。心底相手を馬鹿にしたような顔で、肩を竦める。

「何の話をしているのか分かりませんね。君こそ、そんな強盗と手を組んで・・・。私に対する謀反ですか?それじゃあ、報酬の分け前は無しって事でいいですよね?」
「謀反・・・?何のことだか分かりませんけどー・・・・・・・・・」

 しん、と場が静まり返る。

「ちょ、イアンちゃん!?話してる途中!話してる途中だから、寝ないでッ!!」
「・・・・あー・・・。何を言おうとしてたんでしたっけー・・・・」

 痺れを切らして口を挟んだのは悲劇のヒロインよろしく、困惑に首を傾げていた強盗(仮)だった。どうやら、イアンに話の手綱を任せていると話が進まない事に気付いたらしい。

「勘違いなのです!俺達は、ただの警備!貴方方に攻撃される謂われは――」
「あぁ・・・やっぱり・・・。どういう事なの、アーサー!」

 全ての瞳が自称紳士の元へ集まる。それでもなお、彼は飄々とした態度を崩さなかった。それどころか、愉快そうにクスクスと嗤っている。

「どうもこうもありませんよ。私の受けたクエストは『絵を守る』事です。よって、依頼を行使しているに過ぎません。ノエル。お前こそ、何を動揺しているのですか」
「何をっていうかね・・・。アーサー、あんた、鏡で自分の顔を見た方がいいよ・・・酷い悪人面だから」
「人を外見で判断してんじゃねーよ愚図!」
「はぁ!?」

 あー、と唐突にイアンが声を上げた。驚いてそちらを見る。

「駄目ですよぅ、女の子にそんな事言ったら・・・。何だか知りませんけどー・・・ちょっとの間ー・・・死んでてください・・・・・」
「えぇっ!?」

 物騒な発言に驚愕の声を上げたのは、驚いた事にノエル1人だけだった。ふん、と不敵に嗤うアーサーに理解の限度を超え、巻き込まれないようにと2人の間から身を引く。こんな化け物共の戦闘に巻き込まれれば無事では済まない。
 殺意だとか殺気だとか敵愾心だとか。そんな、穏やかではない空気が夜の美術館に満ちる。自分は警備だ、と名乗った彼もまた困惑の表情で面倒な事になってんな、と呟いていた。まったくもって同感である。

「ノエルちゃんはー・・・少し・・・・待っててねー・・・」
「えぇ・・・?」
「えぇ、じぇねーよ馬鹿女!何とか言ってこのトロ助を止めろ!ンな事やってる場合じゃねぇんだっつの!!」
「・・・えぇ・・・・」