3.





 持ち場へ帰る途中、ノエルと出会った。上手くイアンを躱してアーサーの元へ向かう途中なのだろう。個人的には、僧侶の彼女がいつ胃潰瘍で倒れるのかハラハラしているが、まだ一時は大丈夫だろう。

「うろうろし過ぎでしょ、レインくん」
「・・・こっちにはこっちの事情があんだよ」
「神経質だよね、レインくん。もっと気楽に生きればいいのに。胃に穴が空くんじゃない?」
「その台詞、そっくりそのままお前に返すぜ。んで、お前もうろうろしてんのは何でだ?面倒だから貴族様のとこへ行きたくねーってか?」

 あぁ、と一つ頷いたノエルはしかし、首を横に振った。眉間に皺が寄り、何かしら困っている事を伺わせる。

「いや、よく考えたらアーサーの持ち場ってどこだったっけ?イアンの所へは送ってもらったから問題無かったけど、そういえば帰りは一人なんだったよ」
「・・・いつか死ぬぞ、ノエル。もっとしっかりしてくれよ頼むから」
「私以外の人がしっかりしてるから大丈夫でしょ」
「よく周り見てから言えよ!どこら辺がしっかりしてるって!?イアン見ろイアン!職務怠慢の鏡じゃねーか!!」
「ブチ殺されるよレインくん・・・」

 呆れたように肩を竦めた僧侶はしかし、態度を改めるつもりなど毛頭ないようだった。その証拠に、横でぴーちくぱーちくアーサーの所まで送れと声高に要求してくる。
 当然ノエルをこの場へ放置しておくわけにもいかないので、非常に気は進まないものの、再び自称紳士の元へ。別れる直前、相当キてたから出来れば近付きたくなかったというのに。予定というのは得てして狂うものである。

「そういえば、フリージアって花、知ってる?」
「あぁ?フリージアぁ?」

 女っ気が欠片もないノエルからまさか花の話題を振られ、一瞬戸惑う。しかし、彼女に他意は無いようだった。純粋に疑問だったから、訊いた。それだけ。

「なんでンなもんが気になるんだよ・・・。つか、どっから出て来た今の話題」
「昨日さー、アーサーに来た依頼人の女の人が置いていったの。フリージア。で、花言葉を訊いたら、自分で調べろってあの似非紳士野郎が」
「・・・調べろよ」
「そんな暇無かったじゃん」

 残念ながら、貴族でも紳士でもないレインにはそもそもフリージアという花のイメージが出て来ない。白っぽい花だった気もするし、黄色い花だった気もする。
 つまり、何が言いたいかというと。

「俺に訊いて分かるわけねーだろ。調べろ、自分で」
「だよねー。ま、予想はしてたよ。実際裏切られると、心底ムカつくけど」
「人に物を訊く態度じゃねーんだよお前はよぉ・・・」

 ――余談だが。
 わざわざノエルを貴族の元へ送り届けたというのに、やはりアーサーからは心底嫌そうな顔をされた。どいつもこいつも、感謝の気持ちが足りないと思う。