3.





 ノエルを一人で放置しておくわけにはいかないので、イアンの所まで送り届け、そのままの足でアーサーの元へ向かった。というのも、結局彼の目的を、レインは知らないのだ。
 やって来たレインを見て、貴族はあからさまに顔をしかめた。ただ突っ立っているだけだが、その手には剣が握られており、いつでも戦闘に入れる状態である。

「何の用ですか。君の持ち場はここではありませんよ。道にでも迷ったのですか」
「んなワケねーだろ。俺は、お前に訊きたい事があって来たんだよ」
「それ、今訊かなければならないことでしょうか。仕事中ですよ、レインくん」

 早く帰れ、そう言わんばかりの口調。しかし、ここで帰ってはわざわざ反対側の配置にまで遙々やって来た意味が無くなる。何としてでも、依頼ではなく、アーサー自身の目的を聞き出さなければ。
 口八丁、決して馬鹿ではない彼を丸め込むのは至難の業だろう。事実、成功する見込みは限りなく低い。
 ――だからこそ、ストレートに。変化球はかえって危険だ。

「何企んでんだよ、アーサー。まさか、たんなる護衛クエストじゃねぇんだろ。これ」
「・・・君の期待を裏切るようで悪いのですが、ただのたんなる護衛クエストですよ。ただ、護衛対象が絵というだけで」
「ンな上手い話があるか。絶対おかしいだろ、この依頼。なんつーか、美術館そのものが胡散臭い。気付いてんだろ」
「関係無いな。我々がすべき事は、受けた依頼を遂行する事。いちいち私情を挟まないでもらいたい。私は、報酬さえ貰えればそれでいいのだから」

 心中で舌打ちする。のらりくらりと躱されて、核心まで話が持って行けない。肩透かしを食らっている気分である。というより、挑発に乗って来ないのもまた、不気味だ。普段ならこれだけ色々嗾ければ少なかれ化けの皮が剥がれてチンピラのような口調で捲し立ててだすはずなのに。
 ――そうならないというのはつまり、心にゆとりがあるという事。まだまだ余裕だという意味。追い詰められていないのと同義である。

「だから、俺が言いたいのは――」
「いいから黙ってそろそろ帰れ。鬱陶しいんだよ・・・」

 ぎっ、とエメラルドの瞳が眇められる。
 それを睨み返す事数秒。
 折れたのはレインの方だった。

「ちっ・・・。お前、絶対変な事すんじゃねぇぞ。あと!ノエルの面倒はちゃんと見とけよ!お前が誘ったんだからな!」
「馬鹿が。言われなくともそうしてんだろうが。イアンさんが勝手に割り込んだだけだろうがよぉぉぉ・・・」
「・・・あっそう」

 イアンの事を思い出したのか、途端、不機嫌そうになったアーサーに背を向ける。これ以上の長居は禁物だ。下手したら仕事にまで支障を来す。