2.





 控えの別室へ案内されたので、そこで待機。アーサー曰く、「フェイクの可能性はあるかもしれませんが、日が落ちないうちからの襲撃はあり得ないでしょう」。だそうだ。今から依頼の打ち合わせをするらしい。
 人の出入りが出来る場所は3カ所。だとすれば、自ずと配置場所は決まってくるはずなのだが。

「――で?何をどう、話し合うんだよ。もう決まったも同然だろ。俺はどの玄関でもいいぜ。余裕だし」

 口火を切ったのはレイン=ブラウン。襲撃されると聞いてドキドキしている真性のマゾである。

「てめぇ、ノエル!なんか今、失礼な事考えてただろ!!」
「別に。やだなぁ、自意識過剰なんだから。レインくんが思っている以上に、レインくんの事考えてる人なんていないってー」
「何なの!?新手の職場苛めか!!」
「何ですかー、職場苛めってー・・・いいから、早く話を進めましょうよぅ・・・。眠くなってきちゃったじゃないですかー・・・」

 まったくです、とアーサーが追随する。彼の話というのは大概退屈なので、ちょくちょく話が脇道に逸れてしまうのは仕方が無い事だ。

「でもさ、やっぱりこれ、どう足掻いてももう決まったようなもんだよね。だって、戦闘員3人をどの玄関に配置するか決めるだけじゃん」

 僧侶であるノエルに戦う力は無い。侵入者を見つけても、結界を張って自分の身を護る事以外できないのだ。それを考慮すれば、実質上、役に立つのは3人になる。
 しかし、そこでアーサーは嗤いながらだからですよ、と大袈裟に肩を竦めた。

「お前はどうするつもりですか?まさか、帰るつもりじゃありませんよね?」
「あれバレた!?」
「・・・いいだろ、それで。俺は賛成だぜ。正直、ノエルに出来る仕事なんかねーし。行きずりの強盗如きに俺達が手間取るとも思えねぇし」

 渋い顔でレインが呟く。本心はきっと、「てめぇだけ帰るなんざ許すわけねーだろ馬鹿!」とでも思っているのだろうが、それ以外の選択肢が見つからなかったらしい。そんなレインを見て変な顔だと笑っていたイアンがそうだ、と手を打つ。

「大丈夫ですよー・・・ノエルちゃんの面倒は、あたしが見ますよー・・・。そうしたら・・・退屈じゃないですしー・・・」
「なっ!?」

 その発言に驚いたような声を上げたのは貴族だった。しかし、その発言に反論したのはレインである。

「馬鹿言うなよ・・・。お前、寝るだろ、イアン。お前の実力は認めるが、結界しか張れないような僧侶任せるのはちょっと考え物だぜ」
「そうですよ。そもそも、彼女には私の手伝いをしてもらう予定だったのです。それを、何故、君に渡さなければならないのですか・・・」
「アーサー、アーサー。それ、初耳なんだけど。可笑しいと思ったんだよね、この面子を見てる限り。だって私、明らかに場違いだし」

 やれやれ、と貴族は肩を竦める。その様をまんじりと見つめているイアンの両腕が、がっしりとノエルの腕を掴んだ。木にしがみついているコアラのようである。

「そうやって、ノエルちゃんのことをこき使うのは・・・・・・・・・・・・あ、よくないと思いますよぅ」
「しゃきしゃき喋りなさい!時間も無限にあるわけではないのですよ!!」
「えー・・・・とぉ・・・。とにかくー・・・あたし、基本的にー・・・遠距離仕様なんで、結界でもあった方がー・・・・・・都合良いんですよね」

 だからあたしの方にノエルちゃんはいるべきです、と珍しく覚醒した様子で言い切るイアン。彼女とは友人関係にあるので、こうして拘ってくるのはおかしくない。
 ――しかし、食いついたのはやはりアーサーである。

「彼女を依頼へ誘ったのは私です。君に彼女の面倒を見させるつもりは微塵もありませんよというか空気読んでくださいこちらも居なければ困るのですよ」
「でもー・・・」

 そのへんにしとけよ、と片や早口、片やスローペースの口論を遮り、レインが人差し指を立てる。

「鬱陶しいから時間制で交代しろよ。午前12時までに、ノエルがアーサーの所にいれば問題ねぇだろ。それまでは、イアンに貸してやれ」
「私は物じゃないんだけど!そんな言うなら帰るよ!揉め事の中心なんてごめんだからね!!」
「黙りなさい」
「酷いッ!」

 一見を案じるように目を閉じたアーサーはしかし、やがて盛大な溜息を吐くとその首を縦に振った。

「・・・分かりました。非常に不本意ですが、それで全てが収まるのならばいいでしょう。ただし、話してばかりいないで、ちゃんと仕事をしてくださいよ」
「わーい・・・嬉しいなぁー・・・」