2.





 翌朝、美術館にて。
 白い石で造られた重厚な感じの建造物。その中には所狭しと絵やら彫刻やらが飾られている。そういうものに詳しく無いノエルですら、不用意に触ったら大変な事になると分かる代物ばかりだ。
 そんな中、真っ黒のスーツに赤いネクタイ、少し太った男――館長の話を聞く。典型的な金持ち的思想の男で、ノエルはあまり好きじゃなかったが。羽振りが良い所を気に入っているのか、男性陣に嫌悪の色は無かった。

「忙しいところすまない。こうして諸君等のギルドに頼ったのも、警備の数が足りないからだ」

 ――警備が足りればギルドなんて頼らない、という意味だろうか。だとしたら、とても無神経な男だ。

「地図を見れば分かると思うが、人の出入りが出来る場所は大きく分けて三カ所。それ以外からの強盗の侵入はあり得ないだろう!」

 ――何を根拠にそんな事言ってんだこのデブは。
 何とも苛々する男だ。本当に欲しい物があるのならば、壁など突き破ればいいし、別に出入り口から丁寧に侵入する必要は無い。こいつは確実に素人だ。

「・・・ノエル」
「はい?」

 隣に立っていたアーサーが呆れたように小声で話し掛けてきた。館長の方は自らの演説に酔っているのか、こちらの動きに気付く気配は無い。彼の鬱陶しい話に耳を傾けるのも癪なので、横目で貴族様を見る。
 彼はニヒルな笑みを浮かべ、クツクツと嗤いながら落ち着けと言った。

「お前がああいうタイプを嫌うのは知っています。が、今月の食費の為です。我慢なさい。どうせ、そろそろ終わりますよ」
「楽しそうだね、アーサー。あんたもこういう人間、あまり好きじゃないんじゃない?」
「成金風情に劣等感など抱きませんよ。私は、彼よりも将来的には稼ぐ人間になってみせますからね」
「何の話だよ」

 そこで館長の話が終わった。まるで何事も無かったかのように、やはり胡散臭い笑みを浮かべた自称紳士が胸を張る。些か大袈裟に、どこか道化師的に。

「お任せください。この私が、必ずや傷一つつけることなく、絵を守ってみせましょう!貴方はのんびり椅子にでも座って待っていればよいのですよ」

 失敗した時の言い訳が出来なくなるような発言は控えて欲しいものだ。