1.





 出発は明日の朝。さすがのアーサーも非番のレインをこき使うつもりは無かったらしい。それを聞いて、当のレインは心底安心していたが。彼はもっと断るという事を覚えた方がいい。

「なぁ。あのさ、あまり意地汚ぇ話はしたくないんだが・・・」
「どうしたの、レインくん」
「あー、いや、ギルドの家計を管理している人間として一応訊いておくぜ。報酬ってどのくらい貰えるんだ?」

 ――うわぁ、確かに意地汚い。
 思ったが言わなかった。彼も彼で大変なのだろう。ジョブは魔道士なのに、レインが魔道士らしい活動をしている所なんて最近は見てない。
 ふむ、と一つ鷹揚に頷いたアーサーはけらけらと嗤う。

「幾らでもいいそうですよ。この私相手に、何とも杜撰な報酬額ですねぇ・・・ククク・・・」
「いくら、でも・・・?馬鹿みてぇに羽振りいいな!あー!良かったぜ!ぶっちゃけ、今はいねぇアイツ等の依頼が上手くいかなかったら今月はもう食うモンもねぇからな!!」
「えー・・・何ですかー、それ。聞いてませんよぅ」

 ぶーぶー、と文句を言うのはイアン。彼女は寝たい時に寝、食べたい時に食べる駄目人間だ。が、そんな彼女に便乗したのは意外な事に貴族だった。

「何ですって!?食べる物も買えない程に貧窮していたのですかっ!?」
「同情はいいから金を寄越せ!」
「黙りなさいチンピラが。・・・私を強請ったところで何も出て来ませんよ。親のすねかじりはみっともないですからね。そもそも、貴方方が悪いのですよ。破壊活動にばかり勤しんでいないで、生産性のある活動をしてもらいたいものですね」
「まるで被害者のよーだけど、あんたも同じようなもんなんだから自重してよね」

 しかし飢え死には美しくありませんね、と何かを思案するようにアーサーが黙り込む。やがて、彼が下した決断は簡単なものだった。

「働かざる者食うべからず。働きなさい。以上」
「てめぇぇぇぇ!!家で良い物食ってんだろーがよ!!」

 呻るレイン、便乗するイアン。高圧的に威嚇するアーサー。
 ――あぁ、またか・・・。
 そう思って盛大な溜息を吐けば、にらみ合いは一旦幕を閉じたのか明日の依頼メンバーが一時解散。レインは部屋へ帰って寝るらしい。イアンも大欠伸をしながら出て行く。
 残されたのはノエルとアーサーだけだ。

「・・・嵐みたいだったね」
「そうですね」
「ところでさ、フリージアだっけ?あの花の花言葉は?貴族だか紳士だか知らないけど、何か知ってるでしょ。アーサー」
「えぇ。知っていますとも。私を誰だと思っているんですか、お前は」
「ふーん。じゃ、何?花言葉」
「ノエル。お前に乙女らしい思考回路があった事に私は驚きですよ。ですが――」

 にっ、と微笑むと言うにはあまりにも禍々しすぎる笑みを浮かべ、自称紳士は肩を竦める。

「ご自分でお調べください。私は貴族であり紳士であっても、人間辞書などではないのですよ。人に頼ってばかりいてはいけません」

 はっ、とノエルは実に色気のない笑みを返す。

「本当、そういう所はすっ・・・・・・・ごくムカつくね、アーサー」
「言ってろ馬鹿」
「煩い似非紳士が」

 この後、先行していた依頼組が帰って来るまでの間、取っ組み合いの喧嘩をしたのだがそれはまた別の話だ。