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「とりあえず、いないよりはマシでしょうから二人とも呼んできてください」
「自分で行け」

 悩みに悩んだ末、アーサーが下した決断はそれだった。そして、こうやってさらっと人を使おうというところが実に貴族らしい。

「私、レイン君達がどこにいるのか知らないのですよ。だから、お前に頼んでいるんでしょう、ノエル」
「部屋に引き籠もってるよ。イアンの方は力尽きて廊下のどっかで寝てるかもしれないけど」
「ちっ、またかあのじゃじゃ馬。何度部屋へ帰って寝ろと言えばいいんだ・・・!」
「仕方ないでしょ。あの人、もともとは森に住んでたんだから。廊下も寝床と変わらないって言ってたし」
「虫唾が走る神経だな!おら、立て!行くぞ!」
「痛い、痛いって!」

 腕を力任せに引っ張られ、無理矢理ふかふかソファと別れさせられる。正直、依頼を受けたのはアーサーの方なので巻き込まれたくない。
 立ち上がったノエルに、自称紳士は命じた。

「お前の担当はイアンさんです。見つけ次第、ここへ連れてきなさい」
「自分だけ楽な方取ってんじゃねぇよ!私もレインくんを起こしに行きたい!!」
「あぁ!?寝起きの男部屋に入るつもりかよてめぇ!!」
「・・・そうだった・・・」

 体よく面倒事を押し付けられたノエルは小さく溜息を吐いた。こうして口論になった時の勝率は5割だ。最近は負けが込んできているので、もしかしたら4割ぐらいに引き下げかもしれない。


 ***


 アーサー、ノエル、イアン、レイン。
 揃った面子を見て、それなりに満足そうな顔で頷いた貴族がどかっとソファに座る。高級感溢れるそれは、完全に彼の体重を吸収。音一つ立てなかった。

「おい!てめぇ、何のつもりだ!俺は今日、非番なんだけど!!」

 開口一番にそう言ったのはまだ眠そうにしているレイン=ブラウンである。この様子だとアーサーの予想通りに彼は自室で眠っていた事になる。それが抗議の声を上げるのは当然だろう。
 そんな魔道士の抗議に対し、紳士はふん、と鼻を鳴らした。それはそれは傲慢に高圧的に。

「依頼です。少々、人手が要りましてね。私も非番の君を起こしたくなどなかったのですが、いるならば使わない手は無いな、と」
「意味分かんねぇんだよ!つか、謝罪に全然誠意がこもってない!」
「そりゃあそうでしょうよ。だって、謝るつもりなんてこれっぽっちもありませんから」
「よし分かった!表へ出ろ似非紳士がッ!!」
「粋がってんじゃねぇぞチンピラ風情がよぉぉぉ・・・・」

 ヒートアップし始めた男性陣の喧嘩を終わらせた――というか、遮ったのはそれまでずっとぼんやりしていたイアンだった。

「えーっとー・・・・つまり、仕事って・・・・事ですかー・・・?」
「・・・だから、そう言っているでしょう」

 イアンが参戦した事により、直ぐさまアーサーの顔が曇る。彼は、本当の本当にイアンが苦手なのだ。というより、天敵と言った方がいいのかもしれない。

「えー・・・ここにいるって事はー・・・・・・・・・・・・・・」
「何だよ早く言えよッ!時間が圧してんだよぉぉぉ!!」
「まぁ、落ち着いて。アーサー。根気が必要だからさ、イアンちゃんの相手は」

 自分の話をしている事が分かったのか、イアンがへへへ、と可愛らしく笑う。

「ノエルちゃんも一緒ってことだよねー・・・嬉しいですぅ」
「だぁぁああああああ!それ、今言う必要あんのかよぉぉぉ!!あぁあああぁあぁぁぁっぁあああ!!」

 だんだんだん、とひたすらに両手で机を殴り続けるアーサー。それを見てドン引きしているレイン。ノエルと笑い合っているイアン。

「シュールな光景だなぁ・・・」
「んー・・・何か言いましたー?」
「・・・いいや」