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 ともあれ、アーサーの呼びかけを無視するわけにもいかず、さっきまで彼の前に座っていた依頼人の場所に腰掛ける。先程までいた女性はもう帰ったらしい。
 仏頂面のノエルを満足げに見、貴族は問う。

「今日、ここには誰がいますか?確か、大掛かりな依頼が入って大半がいなかったと思うのですが」
「あぁ。そういえば大捜索依頼だとか言ってたかな。何でも、人捜ししてるらしいよ。良家のお嬢様。どっかで逢い引きでもしてんじゃない?」
「ふん。それは楽しそうだ。お前の事じゃないだろうな」

 アーサーの沸点は低い。ふとした事ですぐ暴言を吐くのだが、日常茶飯事過ぎて毛ほども恐いと思わないのだから不思議だ。

「私じゃないね。大捜索する意味が分からないよ。私は、ちゃんと親に言って出て来てんだからさ」
「・・・まぁ、そうですね。で?誰がいるんです、今、ここに」
「私達とイアンちゃんにレインだよ。良かったね。このメンバーだとどんな依頼でも受けられるよ。何せ、万能型のレインがいるんだから」
「何故、レインさんがあっちの依頼に着いて行かなかったのか分かりませんがそれはそれで助かりますね」

 しかし、と紳士は顔をしかめる。

「あぁ、イアンはいやだって?苦手だもんね、ああいう何を考えてるのかまったく分からないタイプ」

 どんどんアーサーの顔が渋くなっていく。だったらレインだけ連れて行けよと思うが、人手がいるのだろう。誰が残っているか訊くということは。
 ギルドに集まって来る依頼は大まかにわけて二つある。戦闘が必要な護衛タイプと、それらが必要無い物探しなどの依頼だ。細かく分ければもっとたくさんあるのだが、戦闘が出来るか出来ないかでメンバーの受けられる依頼は変わってくる。

「ねぇ。ちょっと。考えてないで何か言えよ・・・ん?」

 悩んでいるアーサーから目を離すと、その机の上に花束が置いてある事に気付いた。しかし、どこかの限度を知らない貴族が持って来るような大きすぎて抱えられないような花束ではなく、可愛らしい小さな花束だ。何やら白い花のようだが――

「それはフリージアですよ。さっきいた依頼人の女性が持って来てくれたのです」
「へぇ。可愛い花だね。花瓶用意して飾ろうか?」
「後になさい」