1.

 良く晴れた昼下がり。ホールへ降りて来たノエル=ブロンデルは適当な椅子に腰掛け、紅茶を飲んでいた。一杯目はストレートで、二杯目はミルクをいれて。
 長閑だが――ここはギルドの拠点である。どこかの別荘のような体をなしているが、働く為の建物なのだ。どうしてギルドにいるのか、という説明は人それぞれ、居る人間の分だけ理由があるので省かせてもらうが。
 まずは簡単な紹介をしなければならない。
 バスガヴィルのギルド、それがこのギルドの正式名称だ。というのも、この拠点を提供してくれた仲間の一人の姓がそれだからだ。特に理由は無い。
 何をする場所か、と問われれば有り体に言うと、何でも屋・便利屋だ。報酬によって依頼を受け、こなす。それが仕事である。
 現在、拠点内にいるのはノエル自身を含む4人だが、とりあえずいる人間だけを紹介してしまおう。
 現在、ノエルの向かって右端、ふかふかのソファに腰掛け、依頼人らしき女性と話しているのがアーサー=バスガヴィルだ。彼がこの別荘の提供者であり、一応、ギルド内部のあれこれを取り締まっている。
 金色の短髪にエメラルドグリーンの瞳。室内であるにもかかわらず黒いロングコートを着ている。彼は良家の貴族の長男なので、身につけている物がいちいち高級感溢れる、存在そのものが嫌味のような奴だ。通称、似非紳士。
 続いて、現在ノエルの目の前でソファに腰掛けている少女。うつらうつらと船をこいでいるから眠たいのだろう。紹介が終わったら起こして部屋へ連れて行ってあげなければ。
 そんな彼女の名前はイアン。何を考えているのか分からない、ちょっと電波が入った友人である。狩猟一族で獲物を前にすると人格が変わる。
 肩口まで伸びた銀髪を一つに縛っている、とても小柄な子だ。余談だが、常に眠そう。
 そして、今はホールにいない最後の一人。レイン=ブラウン。彼はギルド内でも数少ない常識人だ。そのせいか、アーサーにこき使われ、今はいないもう一人の仕切り役に泣き疲れる存在である。
 金髪碧眼。童顔なので実年齢よりやや若く見られる傾向がある。そんな彼はたぶん、自室で久しぶりの休みを満喫している事だろう。

「イアンちゃん、起きて。こんな所で寝てたら、またアーサーが煩いからさ」

 とんとん、と肩を叩く。ホールは空調が効いているとはいえ、何も掛けずに眠るには些か寒いだろう。風邪を引かれても困る。

「あー・・・。ノエルちゃんじゃないですかー。わたしー・・・今とっ・・・・・・・・・・」
「何!?とっ、何!?ちょっとー、寝ないで!!」
「・・・・・・・っても眠いんですよぅ・・・・・・・・」
「部屋に帰って寝てよっ!!」

 がくがく揺さぶりながらもイアンを叩き起こす。
 一応、起きたであろう彼女は唸りながら、やっぱり寝てんじゃないだろうかという顔のまま、渋々と立ち上がった。
 彼女がまた廊下とかで寝てしまわないように、部屋まで送り届けようとノエルもまた腰を浮かす――

「ノエル」

 それを見計らったかのようなタイミングで、声が掛けられた。向かって、右端から。

「何、アーサー。今ちょっと忙しい」

 鬱陶しい、という思いを隠しもせずそう言うとにやにやと邪悪としか表現しようのない笑みを浮かべた自称紳士は囁くように言った。

「依頼ですよ。イアンさんなんて放っておきなさい」

 ――ンなわけにはいかねぇだろうが。
 言おうとしてイアンの方を顧みれば、彼女は驚く程しっかりした足取りで自室へ向かっている最中だった。

「・・・逃げられた・・・」