第2話

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「偵察へ行くのでしたらおよそ105メートル前方にターゲットの姿が見えます。わたくしも同行致しましょうか?」

 ピー、という謎の音を響かせたクラウディアが淡々とそう言った。いったいどんな機能を搭載しているというのだろう。人間のように扱えば良いのか探査機のように扱えばいいのか、そろそろ頭が混乱してきている。
 居場所が割れたのならやる事は一つだな、とジルヴィアが拳を握りしめる。

「特攻するぞ!回りくどいのはごめんだ!」
「お待ち下さい、ジルヴィア様。ご主人様は先に偵察をと言っておられます。特攻はオーダー外です」
「いいからお前は主人の護衛をやってろよ。あたしの事は良いから」

 ジルヴィアには悪いが、今は特攻仕掛ける段階ではない。一応は軍の片方の姿が見えないわけだし、慎重に行動した方が良い。彼女は彼女の命を背負っていればいいが司令官である自分は部隊の命を背負っているわけだし。無謀な事を部隊員にさせるわけにはいかない。
 それが伝わったかどうかはさておき、クラウディアに拠点の食糧はどのくらい蓄えられているか尋ねた。知らないと言われればそれまでだが、この流れだ。正確無比な数値を出してくれるに違い無い。

「はい。そうですね、4日分くらいの食糧でしょうか。わたくしは食物を摂取しないので正確な数字は出せませんが、これまでの食糧調達率・消費率と照らし合わせ――」

 ――あ、もういいです。長くなりそうなので。
 そう言えば彼女がアンドロイドである事をすっかり忘れて不躾な質問をしてしまった、反省しよう。それにしても4日分。つまり、長期戦は出来ない。食糧に余裕があるのならば傷ついた兵士達を回収し、拠点に送り届ける腹積もりだったがそう上手くは行かないようだ。
 つまり作戦としては今日、或いは明日の日が沈むまでに魔物を討伐し、疲労した兵士達に討伐の終了を告げ、国へ帰って貰うのが理想という事になる。
 正直な所、魔物の得体が知れない所もあるのでじっくり落としていきたかったが悠長にしている暇は無さそうだ。飛び込み業はこれだから割に合わない。今更だが、几帳面な自分には前々から出されていた何日も掛けられる仕事の方が合っているのかもしれない。

「何か考え事をしているようだが、今回の俺はお前の上司でも何でも無く一兵士として扱ってくれていいぜ。いやぁ、たまにゃ身体動かさねぇとな!」
「随分だな。いいのか、弟子に任せて」
「おう、剣聖様。随分と了見の狭い事言うじゃねぇか!良いんだって、俺の記憶によるとこれで失敗した事はねぇからよ。ま、耄碌ジジイの記憶なんざアテになりゃしねぇがな!」

 笑うバートランドを不思議そうな顔で見つめるアルハルト。彼が剣聖と持て囃されようとまだ若い青年である事に違いは無い。歳相応の老獪さを併せ持つ老兵に戸惑うのは必然と言えるだろう。
 ハラハラと二人のやり取りを見守っているとバートランドは不意にその笑い声を止めた。まったくピタリと。

「それによ、この歳になってくると若い奴の成長が楽しみになってくるんだよなぁ。ま、何が言いたいかって言うと教え子の采配を見たくなっただけさね。この状況で不謹慎だとは思うが」

 悪戯っぽく笑う師をジルヴィアが絶句したような顔で見つめていた。少しばかり頭の固い彼女はついでに合理主義を併せ持つので、何の足しにもならない感情論に驚いてしまったのだろう。