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どんな魔物が相手なのか、そう尋ねるとバートランドは肩を竦めた。
「どこにでもいるような獣だな。何でこんなに手間取ってんのかちっとも分からん。と言っても、俺は前戦に出てないから何とも言えんが」
「相も変わらず間の抜けた事だ」
遠慮容赦も無く剣聖はそう言った。オブラートの意味など知らないような言葉にもバートランドが苦笑を返す。追随するようにジルヴィアが淡々と言い放った。
「王国はいつだって対処が遅い。これもいつか起こる事だったんだろう」
「ま、その件については申し開きもねぇな。だが俺は至って平和な空気が流れてる王国は嫌いじゃねぇ。殺伐としてたって精神が疲弊するだけだ。どこの国とは言わないが」
「否定はしない」
王国も皇国も、両極端過ぎるのだと思う。足して2で割ればきっと丁度良いのだろう。合併する気はどちらにも無いだろうけれど。
バートランド先導のもと、交戦地帯へ向かう。と言っても相手は一応生き物だ。延々と移動し続け、最初の場所に留まってはいないだろう。被害状況の把握が先だ。うっかり魔物と出会ってしまえば交戦するかもしれないがそれについては今は考えない事とする。
「伝達が来ませんね。先鋒はすでに全滅しているのではないでしょうか」
それまで黙っていたメイドが不意に呟いた。ただし憶測を語ったのではなく、可能性として全滅しているかもしれないから気を付けろ、というニュアンスだったが。彼女の中では先の兵士達は無事でないという事らしい。
「あーあー、悪いね《特務》。俺も焼きが回ったかねぇ・・・やっぱり前戦出ねぇと調子出ないぜ」
成る程。今までバートランドの部隊に大まかな指揮を出していたのは自分だった。と言うのも、兵士としての価値が無い私は指揮官として大成する必要があったのをバートランドが汲んでくれたというのもある。たんに老兵として前へ出たかっただけなのかもしれないが、ある程度の実力が付いた自分を仮の指揮官として場に据えてくれた彼には感謝してもしきれないくらいだ。
――が、バートランド本人も指揮官の立場は少しばかり苦手だったらしい。そういえば、あまり彼が後ろの方で腕を組んで指示を出している様など見た事が無い気がする。
「焦げ臭いな」
呟いたアルハルトがその足を唐突に止めた。急だった為彼の後ろを歩いていた自分はその背中に鼻をぶつけてしまったわけだが、屈強な剣聖様はそれさえ気付いていない様子だった。痛いのは自分だけ。
文句の一つでも言ってやりたかったが、言葉の通り焦げたような匂いが鼻孔を掠め、一先ず抗議の言葉を呑み込む。
怪訝そうな顔をしたのは指揮官、バートランドだ。
「ああ?ンだこれ・・・火でも焚いたのかよ・・・オイオイ、森だぜ。ここ」
「お前が持ち場を離れるから悪いんじゃないのか?」
「手厳しいねぇ。まあ、そう言えばそうなんだがよ」
ジルヴィアの厳しい視線に肩を竦めた師は現場へ近付く。その足に躊躇いは無く、また恐怖も無い。その様子からして討伐対象は近くにいないようだった。
「切羽詰まっていたのでしょう。どう致しますか、ご主人様」
どうするも何も、魔法を使ってもなお落とせないような魔物なら一度偵察に行きたい。亜種の可能性さえ出てきたが、獣型の亜種って変な特性とか兼ね備えていただろうか。実際に戦うのは自分じゃないのでその辺が酷く曖昧だ。